コロナ禍でも修学旅行を実施した中学校長の思い 「行事は子どもが活躍する場。体験して学ぶことがある」

(2020年12月25日付 東京新聞朝刊)
 突然の臨時休校に始まり、新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)された学校現場。学習の遅れへの不安だけでなく、行事の中止などで子どもたちの精神面の成長や、思い出づくりへの影響も心配される。修学旅行を中止する学校が相次ぐ中、埼玉県久喜市の太東中学校は11月中旬、実施に踏み切った。

「学校行事にはそれぞれ意義がある」と話す木村信之校長=久喜市の太東中学校で

「中3はこの1年しかない」動画で保護者に訴え

 「中学校3年生は、この1年しかありません。修学旅行をぜひ実施させていただきたい」。9月下旬に太東中学校のホームページで保護者に限定して公開した動画の一幕。木村信之校長(53)はカメラに向かい、埼玉県内と訪問先の京都の新型コロナ感染者数のグラフを示しながら訴えた。

 修学旅行を実施するかは各校の判断に委ねられていたが、実現には保護者の理解が欠かせない。人の移動で感染が広まることへの懸念もある中、学校はオンラインでさまざまな情報を発信した。校長が語りかける動画のほか、感染対策の紹介など計4本の動画を用意。オンラインで質問できる会も設定し、保護者の疑問や不安に応えた。

感染リスクに配慮 現地移動はジャンボタクシー

 訪問先は京都と奈良の予定だったが、リスクを抑えるため京都に限定。11月16日から2泊3日の旅行中も細心の注意を払った。現地での移動は不特定多数の人と接しないよう、電車や路線バスを使わずジャンボタクシーにした。宿泊施設は2カ所に増やし、1部屋あたりの人数を絞った。

 さらに木村校長が現地から随時、生徒たちの様子を写真や文章で学校ホームページに投稿。IT機器の操作は「大嫌いです。音楽の教員ですから」と苦笑しながらも、前例のない修学旅行をトラブルなく終えることができた。

「クラスが1つに」行事の意義を問い直した1年

 どうしたら感染リスクを避けつつ、学校行事を実施できるか。学校現場はこの課題に向き合い続けた。木村校長は「リスクを考えれば全部やらない方がいい。しかし、行事にはそれぞれ意義がある。問い直す1年だった」と振り返る。

 人生の節目となる入学式は来賓や在校生の出席をなくし、新入生と保護者のみで開催。体育祭は全員がかかわる種目に絞り、午前中だけで行った。合唱祭は保護者の参観を見送り、一人一人の距離を空けて歌った。どれも本来の形ではなかったが、ある3年生からは合唱祭について「コロナで練習時間は少なかったけれど、クラスが1つになれた。仲間の良さが分かった」という感想があったという。

 「行事を体験することで学ぶことがある。子どもの良さが発揮され、活躍する場でもある」と木村校長。安全と学習時間を確保しつつ、子どもたちが充実した学校生活を送れるよう試行錯誤が続く。 

埼玉県内の小中高校 不足する授業時間は休みの短縮で確保

 2月27日、安倍晋三首相(当時)が全国の小中高校に3月2日からの休校を要請。4月7日には緊急事態宣言が出され、埼玉県内の多くの小中高校は6月1日まで再開できなかった。休校で不足した授業時間を、各学校は土曜日授業や、夏休みや冬休みの短縮などで確保している。

 埼玉県によると、さいたま市を除く県内の市町村立学校のうち、11月25日時点で修学旅行を実施した中学校は42校(12%)、小学校は343校(49%)。他の学校は今後に実施するか、中止を決定して代替策を検討するなどとしている。さいたま市立の小中学校は本年度中の実施を検討している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年12月25日