学習は取り返せるが、取り返せないものもある コロナ休校で考えたい「子どものために学校は何ができるか」 住田昌治校長の思い

子育て世代がつながる

 首都圏や関西などの多くの自治体で休校が延長され、子どもたちは春休みをはさんで約2カ月、学校に行かない日々を送っています。再開後、学校生活はどうなるのか、もしもさらに休校が延びたら…。親も不安ですが、学校の先生たちも苦悩しています。ユネスコが掲げる「ESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)」を実践してきた、横浜市立日枝(ひえ)小学校の住田昌治校長(62)に、現状とこれからの学校のあり方について考えを聞きました。インタビューは、開けた窓から校庭開放で遊ぶ子どもたちの声が聞こえる校長室で行いました。

子どもなりに感じている「いつもとは違う」

―横浜市の小学校では、4月6日に入学式、翌7日に始業式が行われました。久しぶりに学校に来た子どもたちは、どんな様子でしたか。

 入学式は教職員と、子ども1人につき保護者1人に絞って、体育館でやりました。席を離して私の話と担任発表だけ。10分もかかりませんでした。始業式は校内放送で、私の話と担任発表、前もってビデオに撮った新しく来た先生の自己紹介を流しました。

 子どもたちは、久しぶりに顔を合わせて、うれしいんでしょうけど、この後も休みが続くと分かっている。子どもなりに今までと違うということは感じていたようで、静かにしていました。これまでなら放送室にいても「おはようございます」という子どもたちの声が聞こえたのですが、それもなく、担任発表で歓声を上げるでもなく、粛々と。

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インタビューに答える横浜市立日枝小学校の住田昌治校長

 始業式の時点では横浜市は20日までが休校だったので、途中で登校日を設ける予定で1週間分の課題と教科書を渡して帰したんです。それが、政府の緊急事態宣言を受けて急きょ、5月6日までの休校が決まり、登校日もなくなりました。

本来は「人との関わり」で心身を鍛えるのに

―子どもたちはどのように過ごしているのでしょうか。

 3月半ばに担任の先生たちが家庭訪問をした際は、言われた通りに家にいた子も多かったようです。「先生が来て、久しぶりに家族以外と話した」と話す子もいたとか。これだけ「出ちゃいけない」「家にいろ」と言われたら、子どもたちはストレスがたまります。体力も低下する。子どもの場合は、人と関わりながら、遊びながら心身を鍛えている部分がすごくありますから。

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開放された校庭で遊ぶ子どもたち

 今は学校や公園で遊んでいる子もいます。校庭は学年ごとに時間を区切って開放しています。1年生から4年生と特別支援学級の児童で、保護者が就労で不在の家庭などを対象に、学校での緊急受け入れもしています。休校が長くなったので、追加の課題などは緊急受け入れや校庭開放、家庭訪問などで渡す予定です。

 子ども同士が遊ぶかどうかは家庭の判断だと思います。「他の子と遊ばせたくないのに誘いに来るので困っている」というような電話が学校に来ることがありますが、学校が介入すると「学校に言われたから遊べない」ということになりかねない。家庭の判断で「遊べません」と言ってもらうしかありません。

一番心配なことは「学習」ではありません

―親子が自宅で過ごす時間が長くなり、虐待が増えることも心配されています。

 今、警察や児童相談所、区役所、民生児童委員などと情報共有し、連携して子どもの命と安全を守るためのネットワークを強化するよう動いています。警察や児童相談所で話を聞くと、地域からの通報が増えているそうです。学校には休校になっても教職員の誰かがいることを伝え、心配な事案があったら学校にも連絡してもらうようにお願いしました。

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緊急受け入れで登校し、図書室で過ごす子どもたちに声をかける住田校長

 ちゃんと食べているだろうか? しっかり眠れているだろうか? 安心して過ごせているだろうか? 顔を合わせることができなくなって、一番心配なことは学習ではありません。子どもの命と健康です。親の仕事がなくなったり、減ったりして経済状況など生活が激変している家庭もあるかもしれません。学習はいつか取り返せますが、命や健康は取り返すことはできません。

―学習面では、横浜市は教育委員会が製作した授業の動画を配信していますね。

 学校でできないことを教育委員会がやってくれてありがたいです。しかし、校内でITが整備されておらず、日常的な授業でもできていないものを各家庭でどのくらいやれるのか分かりません。紙文化が残っているので、子どもも親も、プリントやドリルがあればそれを優先するのではないでしょうか。教科書を開きながらオンライン授業を見る、というのは、特に低学年だと大人が付いていなければ難しいでしょう。

 子どもの健康状態や学習の状況は、オンラインでは分からないから、本当は登校日を設定したい。時々子どもが来れば、どこが分からないかを聞くこともできます。それができず、今は家庭訪問や校庭開放で様子を見るしかない状態です。今後、メール配信システムのアンケートを使って子どもの状態を把握していきたいと思います。

休校明け「ぎゅうぎゅう詰め」にしないため

―文部科学省が「家庭学習を学習評価の対象にできる」つまり、休校中にオンラインやプリントで学んだことは履修したことにしてもよいという通知を全国の都道府県教育委員会に出しました。

 家庭ごとの取り組みの差が大きいので、履修したことにするかどうかの判断には、休校明けにテストなどで確認することが必要です。まずは前年度の学習範囲が身についているか、新学年の単元もプリント課題は出していたとしても、振り返りながら確認していかないと。

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校庭で遊ぶ子どもたち

―休校明けの授業はぎゅうぎゅう詰めになるのでしょうか。

 学校の先生たちが休校中の今、まさに考えるべきなのが、そうならない対策です。多くの学校は年間35週の標準時数よりも、多めに授業時間数を確保しているので、4月から1カ月の休校なら対応できます。教科同士を関連づけて「この単元はこの教科でやれるから、こっちでは少なくしよう」というような学習計画を作れれば、時間も縮減できます。ただ、4月から新しい学習指導要領が完全実施になり、教科書が新しくなりました。教員自身も初めて見る教科書なので、関連づけのバランスを計るのが難しい部分はあります。

 でも、チャンスでもあるんですよ。学校行事にしても、今までやってきたことが本当に必要かどうかを見直すとか、簡素化していくとか。教員たちの間では「今年の卒業式は良かった」という声が上がっています。「練習しなくたって、きちんと証書を受け取れた。もっと子どもを信じればいいよね」「子どもたちはいろんな人が出てきてあいさつされてもありがたくないよね」「来賓一人一人を紹介するのもやめた方がいいと思っていた」なんていう話も聞かれます。いつもと同じようにできない、となった時に、どういうふうにやるのが一番いいのか、なんのためにやるのかを考えて、整理していく必要があります。

休校2カ月なら夏休みも授業…それでいいのか

―もともと、今の時代に即して持続可能な教育のあり方を目指すESDを推進してきた学校です。

 再開したら前のようにできればいい、と思っていたら、同じような事態が起こった時に、また慌てることになります。持続可能な方向に行かないと。常に変化し続けるというマインドセット(考え方)にならなければ対応できません。プリント学習も変わっていかないといけないでしょうね。「学校にあるタブレット端末を持ち帰ってやれますよ」というふうに。この期に及んで「みんなで集まって職員会議や研修をします」と言っている学校があったら、それはどうかな、と思いますよね。今まで通りのことが通用しなくなっているからこそ、学校や教員が変わるチャンスだと思っています。アナログとデジタルの共存する学校と教員の変革です。

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マスク着用でインタビューに応じた住田校長

―もし、休校が延びた場合、どうなりますか。

 休校期間が例えば(4月からの)2カ月になると、夏休みも授業をして、行事をやめて授業にあてないと、本年度中に学習指導要領に定めた範囲が終わらない。学校再開・休校判断を自治体に任せてしまったために、すでに全国の自治体で進度がばらばらになっています。オンラインで授業ができていたとしても、オンラインとオフラインの授業では、進度も定着度も違ってくるのではないでしょうか。

 結果的に子どもにしわ寄せが行くことになります。長い期間、学校に来られない状態を強いられて、さらに休校が延びたことで「ぎゅうぎゅう詰めで授業やります」「運動会、修学旅行はやりません」「夏休みはなくなります」というのは、本当に子どもたちにとっていいことなのか、という根本的なことを考えなければ。校長の判断で「この教科は今年はこのくらいでやめましょう」「新しく入った英語は来年からにしましょう」とやっていいんだったら、やりますけど、そうすると翌年度に積み残しが出る。ものすごく難しい判断です。

 高校、大学受験を控えた学年の子どもたちは本当に大変です。今、授業ができなくても受験は来年ある。休校によって広がった学力差をどう埋めるのか。誰も答えを持っていません。かといって、入試を1年延ばします、とはならないでしょう。補習、補習で追い込まれていく子どもたちのことを考えると、本当に悩ましいです。

住田昌治(すみた・まさはる) 

1958年2月2日生まれ。1980年、横浜市の小学校教諭に。2010年4月~2018年3月、市立永田台小学校の校長を務め、ESDに取り組む。ユネスコ・アジア文化センター事業推進委員、神奈川県環境教育研究会会長。著書に「カラフルな学校づくり~ESD実践と校長マインド」(学文社)「校長の覚悟」(共著、教育開発研究所)。

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コメント

  • 匿名 より:

    様々なメディアで海外の教育について知る度に、「日本の教育はなぜ昔から変わらない?変えたくない?」と、思っています。先生が教壇に立ち、子供たちは席について一方的に授業を聞く。高度成長期なら適していたかもしれないけれど、今は何時代?周りの国の教育方法も参考に出来ない鎖国中かぁ!?と思ってしまいます。

    慣習でしょうか?良いことを効率よく出来ないのでしょうか?形ばかりのPTAは必要でしょうか?
    私は非正規職員ではありましたが、公立の保育所で働いた経験があります。公務員、役所の中では目に見えない、読まなければいけない空気があり、私が効率よくやろうとしたりやる気を見せて意欲的に働こうとすると周りの人から厄介者扱いされました。なんなのでしょう。
    学校の先生方は私が経験したことの何百倍も、理不尽な思いだったり、本音が言えなかったり、一番に子どもたちのことを考えてはいけないかの様な空気の中、仕事をされている方がたくさんいらっしゃると思えて仕方ありません。

    だいぶ、記事の内容からずれてしまいましたが、アイデアのある、頭の回転の良い、情熱のある、将来の日本のことやこどもたちのことを考えられる先生方は大勢いらっしゃると思います。そんな先生方が、慣習に縛られることなく新しい時代に合った教育改革をしていただきたいと切実に思っております。

  • 匿名 より:

    興味深く、読ませていただきました。新高2娘の母です。
    大人にとってのGWは、また、来年もそう変わらないモノでしょうが、子どもたちにとって、その学年のGWは、1回なんです。
    この休校の皺寄せは、弱い子どもたちに来ていると感じます。今後の学校再開、カリキュラム変更、入試へ向けた情報等々、早めに示す責任が私たち大人にあります。各方面から意見を募り、対処していく。責任重大です。

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