子どもの声が社会を変えた(1)校則なし、授業に出なくてもOK 世田谷区の桜丘中学校

(2019年5月5日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
 今年国連で採択されて30年の「子どもの権利条約」は、子どもが意見を表明する権利を保障し、その意見を尊重するよう求めています。学校で、地域で。子どもたちの声は私たち大人にさまざまなことを気づかせてくれます。
 東京・世田谷の公立中学校では、子どもの声を生かしながら学校を運営しています。
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職員室前のスペースで生徒たちに声を掛ける桜丘中校長の西郷孝彦さん=東京都世田谷区で

教室に入りたくない日でも、過ごせる場所がある

 校則がなく、授業に出なくてもいい。東京都世田谷区の区立桜丘中学校は、異色の学校運営で注目されている。生徒の声を聞いて取り入れ、みんなが楽しく通える場所に変えてきた。

 「校長先生、DJ KOOって知ってる?」「知らない。俺はジャズが好きなんだ」。職員室前の廊下に置かれた机でパソコンを触る生徒が、校長の西郷孝彦さん(64)に話し掛けた。

 教室に入りたくない日は、ここで過ごせる。調べ物をしたり、動画を見たり、勉強してもいい。通りがっかった教員が「おはよう」と声を掛けた。西郷さんは「子どもに、授業がつまんなければ先生にそう言えばいいって言ってるんだ」と笑う。

「芝生」「私服登校の日」 生徒の声を実現させる

 着任した9年前、校内には、落ち着かない子どもたちを必死に抑え込もうとする教員たちの怒鳴り声が飛び交っていた。

 西郷さんは子どもたちと対話し、「先生に『くそばばあ』って悪態つく子ほど、家でも学校でも自分の思いを聞いてもらえていない」と気付いた。「制服を着るとイライラする」という発達障害児や、居心地の悪さを抱えたLGBTの子もいた。なのに、学校は一方的にしかりつけるだけ。「悪いことをした」

 教員へ「生徒の声を聞こう。絶対に怒鳴らないで」と呼び掛けた。学校をよくするヒントを子どもの意見に求め、校則をなくし、制服の強制をやめた。教室以外に居場所をつくり、スマホを授業に持ち込んでいいことにした。生徒総会などで提案された「校庭に芝生を植える」「部活の前に軽食を食べられるようにする」「私服で登校する日をつくる」などのアイデアも、すべて実現した。

どの子の意見も大事に「環境づくりが大人の役割」

 前の学校で不登校だった転校生には、「髪を染めても、遅刻してもいい、好きにしていいんだ」と伝えた。試すように髪を染めた生徒に、教員たちは「いいね」と声を掛け、見守った。何日かおきの登校が、やがて毎日に。自由の幅を広げたことで、どの子も息をしやすい場所になった。

 生徒たちは、入学当初は教員に意見を言うことをためらうが、3年間で見違える。3年生の青木ひかるさん(14)は「この学校には正解がないから、本当にこれでいいか自分で考えるようになった」と感じている。

 今春から生徒手帳に、意見表明や個性の尊重などをうたう子どもの権利条約の一部を掲載。「自分の意見や権利を大事にされた子どもたちは伸び伸び成長する。その環境づくりが大人の役割じゃないかな」。西郷さんは、子どもと一緒につくってきた学校に、手応えを感じている。

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