小学校の体育の「肌着禁止」なぜ問題に? 「汗で風邪をひく」指導の意図が伝わらない例も
「脱げ」という指導ではなかったが…
「暑くなるから(肌着を)脱いだ方がいいよ」。名古屋市内のある小学校では、数人の教員が4月、児童に対し、こう声を掛けたという。保護者の男性は子どもとの会話から「脱ぐよう指導された」と受け止め、「着用の仕方は自由に選ばせてほしい」と求める。教頭は取材に「絶対駄目という意味ではなかった。低学年では意図が伝わりきっていなかった」と釈明し、4月下旬に肌着着用を認める学校だよりを出した。
これとは別の名古屋市内の小学校に通う児童の母親は4月、着替えの肌着を持参し忘れた場合の対処を子どもに聞くと、「風邪をひくから(肌着を着たら)駄目」と話したという。このため「脱ぐよう指導された」と受け止め、「心と体の成長速度は異なるので心配」と語った。
教頭は取材に、こうした指導を「確認できなかった」と回答した上で「忘れた場合、着てきた肌着の上から体操服を着てもいい。うまく伝わっていなかった可能性もある」と補足した。半袖の体操服から、保温性に優れた長袖下着がのぞく場合もあり、「『汗をかくから脱いだら』という声掛けを『脱げ』という指導と思ったかもしれない」とも推測。4月下旬、学校だよりで保護者に説明した。
長袖肌着やタイツは? 悩む教員たち
川崎市の問題を受け、スポーツ庁は3月18日、各都道府県教委に文書で、点検と見直しを通知。名古屋市教委は翌19日、市内の小学校と特別支援学校に柔軟に対応するよう文書を出したほか、4月12日の校長会で学校だよりで通知するよう促した。
ただ、教師側は個々のケースへの対応で悩んでいる。長袖の指導を例に挙げた教頭は「今後、長袖肌着やタイツを着用してきた場合、どう指導すればいいのか。もう『脱いだら?』と言えなくなってしまった」とこぼす。冒頭の学校の教頭は「着替えを忘れた児童への対応をどうするか、教員から声が上がった。肌着を着たいなら着たまま体育に参加してもらった上で、保護者には『着替えを持ってきた方がいい』と連絡する方法を考えている」と打ち明けた。
一方、岐阜市のある小学校では、体育の授業を行う日は児童が体操服を着て登校するのが習慣化している。教頭は「着替える手間がいらない」と利点を挙げる。肌着の着用や着替えの持参は家庭に任せている。保護者の女性は「夏は速乾性の肌着など、子どもが当日の気温に合わせて調整している」と話した。
一方的な禁止は性的配慮に欠ける 子どもの権利を土台にするべき
川崎市教委は、肌着を着用しないよう児童に指導した理由について「運動後の汗で体を冷やさないようにするなど健康と衛生面への配慮から」と説明している。ただ、肌着を着用せずに体操服を着ると汗で肌が透けたり、体の輪郭が分かったりしかねない。子どもの権利に詳しい工学院大教職課程科の安部芳絵准教授は「着用の一方的な禁止は性的な配慮に欠け、人権の視点からも問題」と指摘する。
その上で、学校と児童、保護者が一緒に考える重要性を説く。国連の「子どもの権利条約」には「子どもにとって最もよいことを、子どもに聞いて一緒に考える」という理念がある。安部准教授は「学校にもこの権利が土台としてあるべきだ」と強調。名古屋市の学校がたよりを出したことを評価し、「これを契機に個別のケースなどを話し合ってほしい」と促す。
低学年に伝わりづらい点は「学活や保健体育の授業、運動会などの行事前に話し合う機会を」と提案。「体育は汗をかく。そのままだと風邪をひくかもしれないね」「水着で隠れる部分は大切な場所。自分以外の人に見せないようにしよう」などと伝え、自分で理解して判断できるようにする過程が大切という。
保護者の声を学校に伝える場が少ないのも課題。安部准教授は保護者や地域住民が委員となる「学校運営協議会」を挙げ、「保護者の声を伝える場になれば」と話した。
川崎市の「肌着着用禁止」問題
川崎市立の一部の小学校で「体操服の下の肌着着用が禁止され、嫌がる児童がいる」と3月9日に市議会で議員が指摘。川崎市教委が市内全114校を調査した結果、禁止した学校はなかったが、34校で主に低学年に着用しないよう声掛けしたことが判明した。滋賀県守山市でも同様の事例があった。
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