日本一人口が少ない青ヶ島、2人だけの中学生「1人1台タブレット」で広がる世界 悪天候で届かない新聞も電子版なら大丈夫
伊豆諸島の南端「青ヶ島」人口171人
東京都心から南へ358キロ。有人の島としては伊豆諸島で最南端にある火山島。二重カルデラの地形は世界的にも珍しく、米国の非政府組織(NGO)から「死ぬまでに見るべき世界の絶景13」に日本から唯一、選ばれた。人口171人(7月12日正午時点)で「日本一人口の少ない村」。村立の青ヶ島中学は現在の在校生(3年生の2人のみ)が来春卒業すると休校になる可能性がある。
東京新聞電子版の記事を題材にスピーチ
生徒は3年生の、もみじさん(14)と詠太郎(えいたろう)くん(14)。人口171人の島に中学は青ヶ島中学しかなく、生徒は2人だけ。併設の青ヶ島小学校では児童8人が学んでいる。
電子版は期間限定で閲覧できる臨時アカウントを東京新聞が提供した。もみじさんと詠太郎くんは、国語担当の金子太翼(たいすけ)先生の指導を受けながら、少しずつ電子版の新聞記事を読み始めた。
6月中旬には、中学の朝のミーティングで生徒がそれぞれ、電子版で読んだ記事を題材にスピーチした。
先生たちを前に「突然ですが、皆さんは新聞を読んでいますか?」とスピーチを切り出したのは、もみじさん。
新聞の国際面に載ったマクドナルドへのサイバー攻撃の記事を元に感想を話した。新聞を読んで良かったこととして「今の情報を知ることができる」ことを挙げた。
詠太郎くんは、長崎県・五島列島で見つかった世界最大級の巨大サンゴの保護方針を小泉進次郎環境相が示した6月5日朝刊1面の記事に注目した。本紙が巨大サンゴ発見をスクープしたニュース(5月4日朝刊掲載)の続報だ。「今まで見つかっていなかったことに驚いた。こんな大きなサンゴが見つからないほど海は大きいんだとあらためて感じた」と話した。
新聞は社会との接点 思考力を高めたい
木下和紀校長は「世の中に目が向き、視野が広がったと思う」と、2人の成長を見守る。青ヶ島はヘリや船が欠航すると紙の新聞が届かないため、新聞を読む習慣をつけるのが難しいという。
八丈島よりさらに南にある絶海の孤島・青ヶ島。人口が少なく、子どもたちは同世代にしても大人にしても多くの人に接することができない。それを心配していた金子先生が、授業のヒントを得られればと5月、東京都NIE推進協議会主催のオンライン勉強会に自主参加。新聞を購読しづらい事情を話した。NIEを支援する東京新聞読者部が「離島での学びに役立てば」と電子版の試用を提案した。
金子先生は「日々のニュースに触れることで、社会情勢の変化に対する感度が高まっているようです。社会との接点として電子版を活用していきたい。批判的思考力や多面的思考力にもつながる」と話している。
「巨大サンゴ保護」のオンライン授業 記事を書いた記者が講師に
疑問をぶつけて「意見が変わりました」
詠太郎くんの疑問は「今までこのサンゴは保護されなくても何百年と生きてきた。それなら今から保護しても、保護する前とあまり変わらないのでは?」という点。教育に新聞を生かすNIEの学びでは、情報をうのみにせず、自分で咀嚼(そしゃく)し、疑問を感じたら考えを深めることが大切だ。
「保護に賛成ですか? 反対ですか?」と質問した詠太郎くんに、蒲デスクは「僕は賛成です」とキッパリ返答。「なぜかというと、貴重な存在である巨大サンゴは観光資源にもなり、多くの人が見に来て傷ついてしまうこともありうる。保護して守っていくことが必要なんです」と説いた。詠太郎くんは「人が来てしまうという問題もあるとわかり、(自分も)意見が変わりました」と話した。
蒲デスクは「機会があれば紙の新聞も読んでみてくださいね」と2人に伝えた。
ミニ新聞づくり 島への思いを込めて
生徒らはこの日の出前授業に向けミニ新聞の編集作業にも取り組んできた。詠太郎くんは島が直面する深刻な人口減少問題を取り上げ、もみじさんは「私の青ヶ島」と題して星空や夕日の美しさなどを紹介する紙面をそれぞれタブレットPCでつくった。
島で生まれ育ったもみじさんは、島への思いについてもたっぷり書いた。青ヶ島には高校がない。進学するには3月に島を出て親元から離れて暮らす場合が多い。「十五の春」と島では呼ばれ、出発時には激励の幕を掲げた島民や先生らが見送るという。
もみじさんは「このように数少ない子供の見送りをしている温かい島である」と紙面で紹介した上で、こう書きつづった。「私は、青ヶ島が大好きだ。母と父には感謝している。この島に生まれさせてもらってありがとう」
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