中学の教職員、長時間勤務の原因は部活動 スポーツクラブへの「地域移行」を 茨城県の有識者会議が提言へ
事務時間は減っても、変わらない
全国的に教職員の長時間勤務が問題となっている中、茨城県では、特に中学校で長時間勤務者が多い。2021年4~7月の時間外在校時間を調べた県教委の調査では、国が2019年1月に策定したガイドラインで示した超過勤務の上限(45時間)を超える教職員の割合が、いずれの月も全国平均を上回った。
長時間勤務の要因(複数回答)は運動部、文化部を含めて「部活動」が68.6%で最も多く、「授業準備」や「定期テスト作成」を上回った。ただ、超過勤務の上限超えが全国平均と比べて多い理由は分析できていないという。
教職員の働き方改革自体は、本県でも部活動改革以前から進めてきたが、県教委は有識者会議で「事務時間は減少している一方、部活動の従事時間に変化は見られない」と報告した。
専門的な指導で生徒にもメリット
改善策として文部科学省が推進し、県教委の有識者会議でも検討されているのが、部活動の地域移行だ。地域のスポーツクラブに休日の練習などの一部を委託する形式のほか、複数校の生徒が集まって活動する「拠点校型」、企業や大学と協力する「企業・大学連携型」、市町村教委が指導者を探す「行政主導型」など、地域の実情に応じたさまざまな取り組みが既に全国で始まっている。
教員にとっては長時間勤務の解消につながり、本業の授業に割ける時間が増える利点があるほか、必ずしも競技に精通しているとは限らない顧問よりも専門的な指導を受けられるため、生徒にとってのメリットもあるとされる。
課題「経済格差」「事故の責任は?」
一方で課題もある。これまでの有識者会議では「参加費が受益者負担となれば、経済的な格差も出てしまうのでは」「活動中に事故が起きた際の責任の所在はどうなるのか」などの指摘が出ている。
有識者会議の委員長を務める流通経済大スポーツ健康科学部の柴田一浩教授は「教員の長時間労働という犠牲に頼るのではなく、部活動を持続可能にするために必要な提言をしたい。受け皿となる地域のスポーツクラブなどが自立するまで、少なくとも移行段階では行政の財政支援が必要だと考えている」と話す。
有識者会議は4月中旬に提言案を取りまとめ、5月中旬に県教委に提言を提出する方向だ。
水戸市のモデル校 月の平均超過勤務を19時間減らせた
休日、教員に代わりNPOが指導
文部科学省は2020年9月、中学校と高校を対象とした通知「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」を出した。23年度以降、休日の部活動は段階的に地域移行し、休日の部活動指導には望まない教師が従事しないようにすることなどを掲げている。
2021年度からは地域移行のモデル校事業を全国でスタート。本県では、水戸市立双葉台中学校とつくば市立谷田部東中学校がモデル校に指定された。
双葉台中では、サッカー、バスケットボール、卓球、剣道、ソフトテニスの5つの部活で、休日指導を希望しない教員の代わりにNPO法人が指導者を派遣し、土日のどちらかで週1回指導。その結果、昨年10~12月の教職員一人当たりの月平均超過勤務が前年同月比で19時間減り、44時間になった。
費用は全家庭から500円徴収
山本一典教頭(55)は「教員が部活動に費やす時間が減った分、授業に費やす時間が増え、いい授業の提供にもつながる」と話す。各種テストなどから、生徒の学力が向上する傾向も見られたという。
教員が部活動に取られる時間の削減は授業の改善につながるとの考え方から、同校では保護者説明会で理解を求めた上で、NPO法人に支払う費用は対象の部活の部員だけの負担とはせず、全ての家庭から毎月500円ずつ集めている後援会費を充てている。
一定の成果がみられたため、同校は22年度以降、モデル校指定が続くかどうかにかかわらず、地域移行を進める方針だ。ただ「財源」には課題も。山本教頭は「今はモデル校として行政の補助があり、後援会費だけで賄えているが、今後どうするかは考えていかないといけない」と指摘する。