いじめで「死にたい」と悩み、スクールカウンセラーに救われた男性が相談員になった 「話すことは放すこと。頼ってほしい」
小中でいじめ 両親には言えず
「きもい」「死んでほしい」。千葉県に住む栗本顕(あきら)さん(31)は、県内の私立中1年の2学期、スクールバスの座席などに残された落書きに気付いた。
公立小時代にいじめに遭った。そこから逃げるために進んだ私立中にも「居場所がない」。食事はのどを通らず、登校すると腹痛に襲われた。両親の目を盗んで自宅の壁に頭を打ち付けた。「死にたい」と思い詰めた。
両親をがっかりさせたくないと相談はできなかった。「いじめ」を言葉にして認めると、私立中受験の努力が無駄になりかねないとも感じた。誰が味方か分からず、友人も学校の先生も信じられなかった。
「つらいことがあったのかな」
無理して登校を続けていたある日、スクールカウンセラーの案内がたまたま目に留まった。放課後、隠れて訪ねた相談室で女性のカウンセラーと向き合った。
「つらいことがあったのかな」との問いかけにハッとした。つらかったと初めて認めることができた。否定や評価をしない語り口に心が軽くなり、一時間ほど泣きながら悩みを打ち明けた。「説明することでモヤモヤを整理できた。問題を解決しようと前向きになれた」
カウンセラーに促され、両親にも胸の内を明かした。2学期の残りは登校せず、休み明けは緊張したが、怖くはなかった。「頼りになる人がいる」と信じられた。一部で続いたいじめも気にならなくなった。
憧れを抱き、心理学を学んで
その後もカウンセラーと対話を続けるうち、憧れるようになった。「苦しんでいる時に本当に望んでいることを一緒に考えてくれた。環境ではなく、自分を変えてくれた」。大学と大学院で心理学を学び、カウンセラーの道へ進んだ。現在はNPO法人などで相談員として働いている。
苦しむ人が周囲になかなか相談できない気持ちは分かる。だからこそ、専門機関を頼ってほしい。「話す」ことは「放す」ことだと強調する。「つらい気持ちをちゃんと受け止めてもらえて、視野を広げてくれた。だから今がある」
SNSやチャットからの相談が大幅増 専門機関もネット対応
座間事件を受けて整備が進む
東京都内のアパートの1室にタイピング音が鳴り続ける。今月上旬、NPO法人「しながわチャイルドライン」(品川区)の相談現場では、メンバー4人がノートパソコンに表示されるメッセージに応答していた。
10代とみられる相談者からは、学校の人間関係や進路の悩みが次々に届く。相談員は「何が不安なの」と少しずつ解きほぐす。「電話に比べるとどうしても時間がかかるが、子どもを信じ解決を促すという根本は変わらない」。小林けさみ副代表(68)は説明する。
全国にある18歳までの電話相談窓口「チャイルドライン」は、2016年からチャットを始めた。現在は国内68団体のうち30近くが参加し、週3、4回受け付けている。今後も拡大させるという。
ネットでの相談体制は、2017年に神奈川県座間市でツイッターに自殺願望をほのめかすなどした9人が殺害された事件を契機に整備が進んでいる。事件後、SNS投稿者の相談に乗る目的で創設された民間資格「SNSカウンセラー」の認定者は1000人を超えた。
国が補助する事業者への2021年度のネット相談は25万9814件で、2018年度の10倍以上。相談者の多くは20代以下だ。小林副代表は「小さな悩みも死にたい気持ちも取りこぼさないよう、人を増やして対応したい」としている。
「チャイルドライン」の電話とチャット相談窓口はホームページで紹介されている。厚生労働省の特設サイト「まもろうよ こころ」にネットの相談窓口が紹介されている。
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