学童難民の親がつくったアフタースクール「こそだての家」 元サッカー指導者の強みを生かし、人の成長に関わり続ける
代表・小林力さん(40)の歩み
暗くなるまで遊べる森 昨春スタート
茨城県つくば市の住宅地のはずれにある雑木林。駅からは遠く、ひっそりとした所に子どもたちの声が響く。遊び場の落ち葉を掃き集めたり、マイクロバスの泥を落としたり、子どもたちは師走の大掃除に余念がない。昼食をつくるため、小枝を重ねてたき火をおこす子もいる。
男の子が「リキーっ。けんかを売られた」と助けを求めた。黙って一通り話を聞き、「もう一回、話し合って結果を教えてくれ」。そして記者に向いて、「あの子は、相手の気持ちまで、まだ頭がいってないんだ」とほほ笑む。
放課後の小学生らを遊ばせるアフタースクール「こそだての家」を昨年4月にスタートさせた。放課後になるとメンバーの小学生らがやってきて、暗くなるまでこの森で遊んでいる。
膝を痛め指導者に モンテネグロでも
それまではサッカーボールを追う日々を送ってきた。
東京都多摩市出身で3歳の時に小学生の兄の影響で始めた。部活や同世代が集まるクラブチームで活躍した。だが、「うまいねえ」ともてはやされるだけの環境に嫌気が差した。
勝ちたかった。よりサッカーに打ち込みたいと高校を中退。さまざまなチームに顔を出し、大学生や社会人らとプレーした。選手としては背が低く、パス出しに徹した。「うまいやつ、でかいやつ、速いやつ、それぞれの長所を引き出した」。そんなプレースタイルだったためか、15歳で左膝を痛めると、今度は指導者として選手を支えるようになった。
地域のチームから始め、より大きなチームへ。モンテネグロのプロのトップチームやアルビレックス新潟シンガポールのトップチーム、ジュビロ磐田のU-15(15歳以下)など国内外で20年間、コーチを務めた。
その後、地域のクラブチームの創設にかかわった。だが経営が成り立たなかった。「サッカーしか知らなかった」と痛感し、ビジネスを猛勉強し、企業の事業目的の達成をサポートするプロジェクトマネジメント会社に就職。長女の歩乃(ほの)ちゃん(7つ)を自然豊かな環境で育てたいと考え、2021年3月、一家でつくば市に転居した。
楽しめるコミュニティーづくりが天職
再び壁に当たった。放課後に共働き家庭などの子どもを預かる児童クラブ(学童保育)に歩乃ちゃんを入会させることができなかった。つくば市では児童が急増し、希望者が殺到していたのだ。そして学童難民の当事者になってしまった。
ならば自分がやってやろうと奮起し、「こそだての家」が始まった。計60人弱がメンバー。うち16人ほどを1日に受け入れる。手作りのブランコや滑り台で遊ぶ。鬼ごっこをする。何もしない…。子どもたちは森で思い思いに過ごす。マイクロバスに子どもを乗せ、活動に協力してくれる市民の農園や施設を訪ねることもある。「出会いと体験を通して子どもの成長に貢献したい」と考える。
サッカーをしている時から「自分のすごさは何か」と、ずっと考えてきた。そして昔も今も結局、「人の強みを引き出すことをやり続けていた」と気づいた。サッカーもこそだての家も変わらない。「教育で人の成長の本質的なところにかかわっていきたい。みんなが楽しめるコミュニティーをつくることが天職のようだから」と目を輝かせる。