金曜夜は「オスキニドウゾ」 入間市のNPOが運営する中高生のたまり場をのぞいてみたら…

浅野有紀 (2023年8月5日付 東京新聞朝刊)

村野さん㊧が見守る中、自由な時間を過ごす子どもたち=入間市で

 思春期の中高生が、放課後に訪れるのを心待ちにする居場所が入間市にある。コンセプトは「オスキニドウゾ」。何をしても、何もしなくてもいい場所で、学校や学年を超えた子どもたちが交流しているという。一体どんな場所なのか-。

カレー作り、おしゃべり、カードゲーム… 

 西武線の入間市駅から歩いて10分。NPO法人「AIKURU(アイクル)」が運営する「AIKURU FREE BASE(フリーベース)」がその場所だ。乳幼児の保護者支援を担う子育て家庭支援センターを夜間に開放。ガラガラなどのおもちゃが並ぶ空間が、毎週金曜の午後5~9時、中学生以上のたまり場に様変わりする。

 6月の金曜午後7時。台風接近で大雨が降る中、室内は15人の中高生でにぎわっていた。「ジャガイモってこれくらいの大きさに切ればいいの?」「そうそう上手」。皆で食べるカレーを作る中学生3人組。包丁を握る女子生徒は、保護者の運転で飯能市から1時間かけて来たという。夕食を待つ間、談笑する子やスマホをいじる子、カードゲームに興じる子、それぞれが思い思いに時を過ごす。

 「この中には、学校に行っていなかったり、特別支援学級に通っていたり、本当にいろんな子がごちゃまぜにいるんですよ」と教えてくれたのは、施設長の村野裕子さん(51)。抱える事情はあえて聞かないが、こっそり教えてくれたり、泣きながら伝えてくれることも。ヤングケアラーであることに疲れ、新宿・歌舞伎町に通い詰めていた、いわゆる元「トー横キッズ」に「こういう場所があれば、わざわざ(歌舞伎町には)行かなかった」と打ち明けられたこともあった。

家族でも友人でもない大人がいてくれる

 子どもたちにとって、フリーベースはどんな存在なのか。ある女子高生は「家族でも友人でもない大人がいてくれる。お母さんには言いづらく、先生に言うほどでもない話を聞いてもらえる」と照れ笑い。中学生男子3人組は「1週間のご褒美。学校に行くモチベーションになる」と声を弾ませた。「学校でいじめられてるんですよね」と話す女子中学生もいた。

 フリーベースは、支援センターで子どもが乳幼児期を終えた母親や、中学生になった子ども本人から悩み相談を受ける中で、中高生世代の居場所の必要性を感じ、2020年夏に始めた。常時、大人2、3人が見守る。村野さんは「やりたいことを成し遂げる経験を積んでほしい」と、スポーツ大会や釣り大会など、子どもが自ら企画するイベントを大切にしている。

寄付や助成金頼り「補助金などの支援を」

 ただ、市の委託で運営費を賄える乳幼児支援とは違い、居場所の委託費は年間約5万円。月額1万5000円の食材費やイベント費は寄付や民間の助成金頼りで、人件費もほぼボランティアだ。

 居場所づくりを掲げるこども家庭庁の調査(回答数・2036)では、家や学校以外に「安心できる場所がほしい」と答えた子ども・若者は7割に上る。

 国の居場所づくりの検討委員を務める文教大の青山鉄兵准教授は「地域とのつながりが希薄になる中、学校と家しか居場所がない子どもたちは、そこで人間関係がうまくいかなくなると途端に行く場を失う」と指摘。「行政も放課後健全育成事業など、余暇ですら子どもの成長を求めがちだが、のびのび自由に過ごせる環境整備が必要で、補助金などの支援が広がることが望ましい」と話す。

 次回の開放日は8月25日。その後も通常開放する。問い合わせは電話=04(2966)2848=のほか、X(旧ツイッター)インスタグラムでも受け付ける。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年8月5日