コーチも保護者もいない「子どもだけで運営するサッカー大会」それは大人も学ぶ場だった
伊勢原FCフォレストが主催、5回目
5回目となる「FOREST SDGs CUP」を主催したのは、幼児から中学生が在籍する伊勢原市のクラブ「伊勢原FCフォレスト」。小学3~6年の学年別に対戦が組まれ、5年生大会は悪天候で中止になったものの、他の学年は別々の日に神奈川県内外のチームが集い、ボールを追った。
3月20日の4年生大会には、フォレストをはじめ、横浜市や相模原市などの神奈川県勢7チームと埼玉県草加市の草加遊馬(あすま)キッカーズが参加。開会式でフォレストのメンバーが試合の進め方を説明し、実戦に入った。
先発メンバーも交代も選手が決める
ベンチにコーチは座らない。選手が先発メンバーを決め、戦い方や交代のタイミングを確認。「自分たちで決めるのは難しくもあるけど、みんなで考えるのは楽しい」と鶴ヶ峰サッカークラブ(横浜市)の金澤久基さん(大会時は同市立本宿小4年)。保護者はピッチから離れた場所で応援する。試合中はベンチで仲間を励まし、指示を送る子どもたちの声がよく響く。
試合は3ピリオド制で、第2ピリオドが終わると双方の選手全員がピッチ中央に集合。審判を務めるフォレストのメンバーが進行役となり、互いに相手の良さと改善が必要な点を発言し合う。
「攻守の切り替えが速い」とほめたり、「もっと声を出した方がいい」とアドバイスしたり。フォレストの一場哲宏代表(51)は合同ミーティングを「サッカー仲間として高め合うため」と意義づける。
目先の勝利より、未来からの逆算を
一場さんは大学時代、ドイツに留学し、サッカーの指導法を学んだ。湘南ベルマーレの巡回指導などで子どもたちを教え、2019年にフォレストを設立。「目の前の勝利より未来から逆算して今を考える。自分で考えて行動し、人生を切り開く力をサッカーを通じて身につけてほしい」と説く。
フォレストでは日替わりのキャプテンが練習メニューを選び、練習後に子どもたちがその日に見つけた仲間の良さを発表する。大会は同じ理念の線上にある。
毎回参加している鶴ヶ峰サッカークラブの本田晃仁(てるひと)副代表(51)は「子どもたちの発言を聞くと、成長に気付かされる。主体的な姿勢が引き出されている」と共鳴。自分たちの招待大会でも合同ミーティングを取り入れたという。
草加遊馬キッカーズの水野寛之代表(35)も「子どもたちがどう考えているのか、仲間をどう見ているのかが分かる。子どもたちは僕の目を見ずに行動する。僕らも変化し、成長できる」と大会を評する。
保護者も実感「あれこれ言うより…」
保護者にも発見が。相模原市の清新サッカースポーツ少年団の応援で訪れた北條めぐみさん(41)は「子どもたちの意外な面を知り、普段はよかれと思ってあれこれ言ってしまうけれど、見守ることも大事だと感じた」とうなずいた。
「子どもは誰もが素晴らしい可能性を持っている。芽をつまず、伸ばしてあげることが大切」。一場さんはそう語り、ほほ笑んだ。