小学生の交通事故が増える10~12月 原因1位「飛び出し」を音声で警告 危険箇所の意識づけにIT活用

(2024年10月23日付 東京新聞朝刊に一部加筆)

飛び出しを音声で抑制する機器「おまもりもし子」(中)と、ランドセルに付けるためのケース(左)。右のスマートフォンの画面に表示されているのは、危険箇所が分かる「もしかもマップ」=東京都渋谷区で

 10月から12月にかけて増える小学生の交通事故。原因別では「飛び出し」によるものが最多となっている。あらかじめ把握した通学路上の危険箇所を記したマップとITを駆使し、こうした事故の防止につなげる取り組みが進む。その現場を取材した。

午後2~5時台が事故の多い時間帯

 「植え込みのせいで見通しが悪い。もし左右から人が飛び出してきたら、ひかれてしまうかも」「細い道だから、もし友達と並んで歩くと、すぐそばを車が通って危ないかも」

通学路の危険箇所について話し合う児童たち=東京都渋谷区の臨川小で

 9月に東京都渋谷区立臨川(りんせん)小3年生の2クラスで行われた、登下校中の交通安全を考える授業。子どもたちは通学路を歩き、「もし○○だったら、△△かも」と危険を予測した。

 日没時間が早まり、ドライバーの目が暗さに慣れていない10~12月は、一年の中でも歩行中の小学生が関わった死傷事故が目立つ=グラフ(1)。最も事故が多い時間帯は午後4~5時台で、同2~3時台が続く。事故の状況(法令違反別)で最多は「飛び出し」で、36.2%を占めた=グラフ(2)。

危険箇所で走り出すと「止まって!」

 今回の同小での授業は、自動車保険会社「イーデザイン損害保険」(東京)が企画した。全国の道路の危険箇所を地図で可視化する同社のウェブサービス「もしかもマップ」と、子どもの事故原因1位の「飛び出し」を音声で抑制する携帯機器「おまもりもし子」を活用。児童と保護者に使ってもらい、通学路の危険箇所への意識を高めた。

 授業は3回。初回は通学路を歩いて危険箇所をチェックし、次の授業でその場所を発表した。

通学路を歩き、飛び出すと危険な場所をチェックする臨川小の児童たち=東京都渋谷区で

 児童たちは別に「おまもりもし子」をランドセルに付け、1週間を過ごす。機器は衛星利用測位システム(GPS)で現在位置を把握し、ウェブ上の危険な箇所近くで走り出した場合、加速度に反応し「止まって!」と音声で呼びかける。

子どもの飛び出しを音声で抑制する機器「おまもりもし子」をランドセルに付けて登下校する児童(イーデザイン損保提供)

 最終回の授業では、「おまもりもし子」に注意された場所のデータを基に、1年生も加わって「事故に遭わないためにはどうしたらいいか」を考えた。

 3年生の峰尾咲良(さら)さんは「『止まって!』と音声で知らされたのは、危なくないと思っていつも走っていた場所だった。見通しの悪い角から車が出てくる可能性があると気付き、今は機器がなくても走らないよう意識できるようになった」と話す。1年生にも「上級生として危ないと感じる場所を伝えることができた」。

臨川小の学区内で、「子どもたちが危険だと思った場所」を示す赤い丸と、「実際に子どもの飛び出しがあった場所」を示す青い点。両者の位置にはズレがあった(イーデザイン損保提供)

どこが危険? 家庭での振り返りが大事

 クラス担任の森野景(けい)教諭(27)は「習い事があると急いで帰ろうとして走ったり、『ちょっとくらい大丈夫だろう』と飛び出したりはあると思う。意識できるかが勝負」と考える。

「知識だけでは間に合わない部分をITの力で補うことで、より高い効果が期待できる」と話す金沢大助教の森崎裕磨さん(本人提供)

 同社とシステムを開発した金沢大助教、森崎裕磨さん(31)=防災・交通安全専門=は「マップで知識として危険箇所を学ぶだけでは、本当に危険が迫った時に飛び出しなどの本能的な行動を制御しきれないこともある。現場で注意を促すことのできる即時性のある機器と、平時の学びの両方で、より高い効果が期待できる」と話す。「大事なのは家庭での振り返り。どこで作動したかの記録をチェックしながら、親子で通学路の危険を話題にして安全意識を高めてほしい」と期待する。

 「もしかもマップ」は誰でも利用でき、学区の危険箇所などをチェックできる。「おまもりもし子」は実用化に向け、改良を重ねている。