不審者から子どもを守るアプリ「SASENAI」 開発の理由は女性起業家が4歳で遭った性暴力 娘が同じ歳になり決意「安全な世の中にしたい」

加藤健太 (2024年3月4日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
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開発中の防犯アプリを説明する小野衣子さん(松崎浩一撮影)

 東京都港区の小野衣子(おの・きぬこ)さんは、最新技術を駆使して犯罪から子どもを守るスマホアプリ「SASENAI(サセナイ)」の開発を続けている。幼少期から何度も被害に遭い、つらい思いをしてきた。「犯罪をさせない。子どもたちが安全に過ごせる世の中にしたい」と力を込める。

子どもに難しい「判断」をAIに

 従来品の防犯ブザーが「不審者に遭ったら鳴らして」と子どもに判断させるのに対し、開発中のアプリは人工知能(AI)が判断し、子どもに判断を「させない」のが特長だ。いざという時こそ行動できないことは、身に染みて分かっている。

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子どもが不審者に接触後、保護者のスマホに通報が来る(画面はイメージ)

 「あの日の出来事は鮮明に覚えている」。4歳の夏だった。自宅前でシャボン玉をしていた時、通りすがりの若い男から性暴力を受けた。ひわいな言葉をかけられ、着ていたワンピースをゆっくり引き上げられた。「いざ出くわすと足がすくんで声も出なかった」。その後も痴漢や露出の被害に遭い、そのたびにとっさの行動を取る難しさを感じた。

対策が私の頃と変わっていない

 2022年10月、長女が4歳になった。あの時の自分と同じ年だ。怖くなって防犯がテーマの絵本を買うと、「変な人がいたら叫ぶ」と書いてあった。「対策が私の頃と変わっていない」。昨年夏、駆り立てられるようにアプリ開発に乗り出した。

 小学生の親112人にどんな防犯対策をしているかアンケートをすると「防犯ブザー」を挙げた人が74%、「大声を出す」が63%に上った。絵本で感じた通り、子どもたちに判断させている実態を目の当たりにした。

都主催のコンテストで最優秀賞

 開発の過程で昨年11月、起業家を発掘する東京都主催のコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」に出場した。「独り善がりになっていないか確かめる意味もあった」。血気盛んな出場者2963人と競った結果は、トップの最優秀賞。迷いは消えた。15年以上勤めたマーケティングの仕事を辞め、アプリ開発を本業に据えた。

 当面は来年1月に試用版のリリースを目指す。乗り越えるべきハードルは多い。騒がしい街中できちんと音声を拾えるか。不審者をどう定義するか。撮影される人の肖像権は問題にならないか。実証実験を重ね、実社会で使える仕様に近づけていく計画だ。

 「このアプリがあれば4歳の頃の自分を守れたかもしれない。子どもたちがたくさん遊んで安全に家に帰ってくる。そんな当たり前の世界を未来に残したい」。過去の自分や、いとしいわが子を思い浮かべながら、決意に満ちた表情で語った。

SASENAI

 カメラやマイクが内蔵された小型機器をランドセルの肩バンドに装着し、身の回りで起きる不審な行動を映像や音声でとらえる。不審な行動かどうかは、自治体が公表する不審者情報などのビッグデータを基にAIが判断。危険と判断したら「近くのコンビニに入って」などの音声を機器から出して行動を促したり、保護者のスマホアプリに通報したりする。問い合わせはメール= pr@vxtech.group =で受け付けている。SASENAIの公式サイトでも詳しく紹介している。

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