漫画家 伊奈めぐみさん 夫・渡辺明名人の日常「将棋の渡辺くん」これ描いて大丈夫?と思っても…

(2022年9月4日付 東京新聞朝刊)

夫の将棋棋士・渡辺明二冠や長男について話す漫画家の伊奈めぐみさん(隈崎稔樹撮影)

ネタだと思えばイライラしない

 夫(将棋棋士の渡辺明名人・棋王)の日常を描いた漫画「将棋の渡辺くん」の連載が10年目になりました。

 ぬいぐるみ遊びが好きな面など、若干突っ込みどころのある夫をネタにしているので、夫が何かヘマをすると「(ネタとして)おいしい!」と思ってしまいます。漫画がなければ、怒ったりイライラしたりしたかもしれませんがむしろ「もっと、もっとちょうだい」という感じですね。

 夫は裏表がない性格。私も正直、「これ描いて大丈夫かな」と思う時がありますが、原稿に目を通す時も、将棋に関する事実関係を確認するだけ。「これ描いちゃダメ」などと言われたことはありません。将棋の専門的な話の場合、取材のように録音して話を聞くことも。漫画のおかげで、夫婦の会話は増えたと思います。

渡辺明名人

息子との接し方に迷っていた夫

 知り合ったのは私が22歳の時、詰め将棋のチャット上のやりとりでした。夫は当時高校を卒業したばかりの18歳。その春、将棋関係のお花見で初めて対面し、明るく素直で、話しやすい人だなと思いました。夏にはお付き合いを始め、冬には妊娠して結婚。付き合って1年後には、息子が生まれていました。

 最初のころ、夫が家事や育児にかかわることはほぼなかったです。振り返るとお互い若く、周りで子育てしている人もいなかった。夫も子どもにどう接していいのか分からなかったのかなと思います。

 息子が小学生になってサッカーを始めると、サッカー観戦が好きな夫も、子どもと会話できるようになりました。中学生以降は、野球も共通の話題。よく2人で野球中継を見て盛り上がっています。息子はこの夏、18歳になり成人しました。夫は息子とは友達感覚かもしれません。

家族3人は「じゃんけん」の関係

 うちは誰かが一番強いということはなくて、それぞれ誰かに強く、誰かに弱いという感じ。私は息子に弱くて、あまり怒らないし割と許しちゃうけど、夫は割と息子に強く言う方です。でも、そうすると私が怒って、私に弱い夫がシュンとする。家族3人がじゃんけんで(グー、チョキ、パーで)あいこになっているような関係です。

 夫は仕事に対してはまじめで厳しく、そういう面は尊敬しています。最近は人工知能(AI)の発達で、対局に備えた研究をしっかりする必要があります。よく自室で研究用のパソコン画面と野球中継を同時に見ていますね。妻としてできることは、足を引っ張らないよう邪魔しないことぐらいかなと思います。

 漫画を通して、夫や将棋のことを知ってほしいとか、伝えたいという気持ちはありません。どちらかというと、「あまり細かいこと気にしなくていいんだ」「苦手なことがあっても楽しく生きていけるんだ」と感じてもらえれば。肩の力を抜いて、楽しんでもらいたいです。

伊奈めぐみ(いな・めぐみ)

 1980年、神奈川県生まれ。不登校だった中学時代、兄(将棋棋士の伊奈祐介七段)の影響で将棋を始め日本将棋連盟の研修会に所属。結婚後、武蔵野美術大(通信制)を卒業。2013年、別冊少年マガジン(講談社)で「将棋の渡辺くん」連載開始。今年4月、単行本第6巻を発売。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年9月4日

コメント

  • 今年のはじめに「将棋の渡辺君」を読んで、渡辺先生とご家族の大ファンになりました。将棋は全然分からないのに、渡辺先生の大盤解説やトークイベントの動画を繰り返し見ています。トークが最高です♪ もちろ
    kenken 女性 60代 
  • この先生の画力は引き算の力が凄い。 将棋の駒に眼鏡をかけただけで輪郭も含めた渡辺先生の特徴を完璧に描き表してる。これは素人には出来ない技だよ。マジ匠。
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