将棋棋士 永瀬拓矢さん 父の”家系”ラーメンが一番好きです 謙虚な姿に学んだ人生の糧

(2020年4月5日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる

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ラーメン店を経営する父親や家族について話す将棋棋士の永瀬拓矢さん=東京都品川区で(佐藤哲也撮影)

9歳の誕生日 祖父から将棋盤と駒

 9歳の誕生日、同居していた祖父から将棋の盤と駒をもらったのが、始めるきっかけになりました。祖父は孫とのコミュニケーションの道具として、将棋を思い付いたのでしょう。もの静かで優しく、放射線技師の仕事を引退後、老後の趣味としてたしなんでいたようです。

 私もすぐに将棋に夢中に。平日は近所の将棋道場に通い詰め、週末は父の経営する川崎市内のラーメン店でお客さんに水を出す手伝いをした後、店の近くの道場へ行くようになりました。

プライドを捨て、変わろうとした父

 父のラーメンは「家系」と呼ばれるとんこつしょうゆ味で、脂の量も調節してくれます。味付け卵やチャーシューも手が込んでいます。父のラーメンが一番好きです。父は研究熱心で、店で出すキムチの勉強をするため、本場の韓国まで行ったことも。私が10歳前後のころだったでしょうか。その後も10年おきぐらいに、一流とされるラーメン店に弟子入りのような形で修業に出て、家をしばらく空けることがありました。

 年を重ねると、誰しも自分の世界を守りたいと思うもの。自分から一歩踏み出し、他の人に教えを請うのは大変な決意が必要だと思います。でも、父は時代の変化に対応するにはプライドを捨て、自分が変わらなければならない、と考えたのではないでしょうか。

 将棋にも共通する部分があります。今の将棋界は強い方がたくさんいて、後輩から学ぶことも多くあります。父から何か言われたことはありませんが、謙虚な気持ちを忘れず、他の人から学ぼうとする父の姿は、間違いなく、私の人生の糧になっています。

佐藤康光九段に勝利 祖父は病院で

 私は今、一人暮らし。実家には祖母、父母、美容関係の仕事をしている21歳の妹、野球部で頑張る高校生の弟が暮らしています。

 将棋を教えてくれた祖父は約9年前に病気で亡くなりました。亡くなる直前、私が初めて出場したNHK杯の本戦で、佐藤康光先生(九段)に勝った瞬間を病院のテレビで見て「よかった」と言ってくれていたと聞き、少しは恩返しできたのかなと思っています。

 父は67歳。ラーメン店は肉体労働で、いつまで続けられるか分かりません。最近は母も店を手伝っていますが、今後はここまで自分を育ててきてくれた家族を、支える立場になれれば、という思いがあります。

 大学進学を希望している弟の学費は、自分が出すつもりです。どれだけ力になれるか分かりませんが、家族のみんなが不自由なく、穏やかな日常を過ごせればと願っています。

永瀬拓矢(ながせ・たくや)

1992年、横浜市生まれ。2004年、小学6年で奨励会入会、2009年、17歳でプロ入り。2012年、若手棋士らを対象とした新人王戦で優勝。2019年、初タイトルの叡王を奪取後、3連勝で王座のタイトルも獲得。二冠となり、八段に昇段した。将棋への厳しい姿勢から「軍曹」の愛称がある。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年4月5日

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