デビューにぴったり「はじめて子ども将棋大会」 将棋担当記者の小2息子が参加してみた 特別ルールでやる気に火がつく!

樋口薫 (2022年8月16日付 東京新聞朝刊)
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真剣な表情で対局に臨む樋口記者の長男=いずれも東京都武蔵野市で

バン記者・樋口薫の棋界見て歩き

 記者はこれまで、自分の子どもたちが将棋の初心者教室に参加した様子を取材してきました。その後の成長は順調…とはいかず、小学4年になった長女(9)は勝負ごとからすっかり疎遠に。一方、小学2年の長男(7)は「歩」の駒のようにゆっくりとした歩みで指し続け、この夏ついに「将棋大会デビュー」することになりました。

※リポートを担当するのは、東京新聞の囲碁・将棋担当、樋口薫記者。新聞の「番記者」とは、特定対象者を追う記者のことです。ここでは政界の「番記者」ならぬ、盤上で戦う囲碁・将棋の世界「棋界」の「バン(盤)記者」がお届けします。

「あいさつ」「楽しく」「反則1回はOK」

 参加したのは、和(やまと)先生こと高橋和女流三段(46)の主宰する東京・吉祥寺の「将棋の森」で毎月開かれている「はじめて子ども将棋大会」です。長男は将棋教室や道場に行ったことがなく、自分の棋力が何級かも分かっていない状態。大会出場はまだハードルが高いかと思っていましたが、このイベントは初めて大会に出る小学生が主な対象(出場歴があっても入賞したことがなければ参加可)。デビューにちょうどいいと申し込みました。

 7月下旬の大会当日、会場には約20人の小学生が集まりました。3分の2が大会初参加だそうです。まず和先生が3つのルールを説明。「あいさつをする」「楽しく指す」「王手の見逃しや二歩などの反則は1回だけならOK」。3つ目は「はじめて大会」ならではの特別ルールです。1時間の間にどんどん指して、一番多く勝った子が優勝という仕組み。トーナメントやリーグ戦と違って待ち時間がないので、集中力を切らさず楽しめそうです。

 家族や友達以外と指したことがない長男は緊張した表情。いつもはふざけてばかりですが、珍しく静かに話を聞いています。他にも緊張した様子の子どもたちがちらほら。なかなか教室に入れない子や「おなかが痛い」と訴える子もいて、記者は心の中で「頑張れ」と声をかけました。

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子どもや女性が利用しやすいよう、「将棋の森」の内装は明るいデザインになっている

たくさん対局してもらう工夫があった

 いよいよ対局開始。和先生の合図とともにざわめいていた教室が静まり、パチリ、パチリと駒を並べる音が響きます。開始3分で「ありがとうございました!」と声が上がりました。見ると、勝ったのは長男のようです。記念すべき初勝利の瞬間を見逃すとは、何たる失態。まさかこんなに早く終わるとは…。でも見られているとさらに緊張しただろうし、逆に良かったのかも。そんなことを考えているうち、対局が次々と終了していきます。

 勝った子は対局カードに、緑色の木のスタンプを押してもらいます。負けると青色のスタンプです。指せば指すほど、木が森のように広がります。たくさん対局してもらう工夫で「子どもたちが負けるのを怖がらなくなる」と、和先生は解説します。

 対局が続く中、廊下で見守っていた保護者に話を聞きました。「初めての大会なので、心配で…」と語るのは、先ほど教室に入るのをためらっていた小学3年の女の子のお母さん。1年前から将棋教室に通っているそうですが、やはり大会は勝手が違うようです。「でも知らない子と指して刺激を受けたら、強くなろうと思うのでは」との話に記者もうなずきました。

「強い子しか勝てない大会」とは違う

 大会も後半に差しかかり、緊張がほぐれた長男は「先生、勝ちました!」「負けました!」と元気に叫んでいます。一方、王手を見逃して「待った」したり、駒台の上が汚いのを指摘されたり、悪い面もいつも通り…。それでも真剣な表情で指している様子を見て、連れてきて良かったと思いました。

 あっという間に1時間の大会が終了。最後は記念品プレゼントもありました。長男は失速して3勝7敗という成績でしたが、駆け寄ってきて「楽しかった」と第一声。「あと1回指していれば最多対局賞だったのに。来月も出たい!」と頬を上気させていました。

 帰り際、「子どもたちの熱がすごいでしょう。エアコンの設定温度を最低にしても室温が上がるんです」と和先生。「普通の大会だと、ある程度強い子しか勝てないので、ちょっとした目標になればと思って始めた大会なんです」。今や44回を数え、募集定員がすぐ埋まるほどの人気イベントになったそうです。

 コロナ禍で子どもたちをなかなか思うように遊ばせてやれませんが、やはりこういう機会は大事だなと実感した夏休みでした。

取材を終えて

 長女は「負けるのが嫌」と将棋を指さなくなってしまったので、楽しくどんどん指させる工夫は「なるほど」と思いました。教室や大会を取材すると、いつも父の方が勉強になります。大会に出て、やる気に火がついた様子の長男。あまり口出しせず、対局の機会を多く作ってやろうと思います。

「将棋の森」とは

 女流棋士の高橋和女流三段のプロデュースで2016年、吉祥寺駅前にオープンした将棋スペース。子どもや女性にも気軽に利用してもらえるよう、入門者や級位者向けを中心とした教室やイベントを実施している。コロナ禍で、オンライン講座なども開催。現在、約200人の子どもが参加している。詳細は公式サイトで説明している。

 囲碁・将棋のさまざまな話題を担当記者がお届けする「バン記者・樋口薫の棋界見て歩き」を東京新聞朝刊で毎月第3火曜日に掲載しています。
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