双子のかんしゃくに疲れ果てたが…「発達段階に合った交渉」で親も子も尊重する子育てへ
心のてあて 虐待防止研究の現場から・下
妻が突然泣き出し、無気力状態になり
都内に住む会社員柳井琉太さん(40)=仮名=は、4歳になる双子の父親。専業主婦の妻が育児に疲れ果て、一緒に理化学研究所のプログラムを受講した。
子どもたちが生まれたころは、夜間の授乳やオムツ替えを妻と交代でやった。寝不足でも「こういうものだ」と受け止めたが、夜泣きが始まると、妻の疲れはたまっていった。かいがいしく世話をするが、突然泣き出し、無気力状態になることも。
さらに双子は1歳を過ぎると、かんしゃくを起こすように。スプーンが転がった、ブロックが床に落ちていた、というささいなきっかけで怒って叫ぶ。妻は「何を訴えているのか分からない」とつらそうにこぼした。助けたいが仕事のある平日の昼は何もできない。区に相談し、保育園の一時利用や保健師の家事育児支援などあらゆるものを頼った。
もがく中で、理研が「前向き子育てプログラム トリプルP」を提供していることを知った。「かんしゃくの時の対応が学べそう」と、2021年6月から夫婦でオンラインで受講した。
理研の「トリプルP」でルールを作ると
冒頭、スタッフに「お子さんに一日のスケジュールを伝えていますか」と問われた。トリプルPは、子どもを一個人として尊重し、話し合える存在だととらえる。親の要求が子の年齢や発達段階に適切であれば、改善したいことのルールを作り、子どもと交渉できるという。
学んだことを、スーパーで実践してみた。それまでは言うことを聞かない2歳児2人を連れて行くのは「かなりの冒険」であきらめていた。教わった通り、出発前に「売り物は見てるだけね」とルールを伝えた。「売り物に触らないで」という禁止ではなく前向きな言葉で話すのがポイント。子どもたちは納得し、無事買い物ができた。
子どもたちだけで寝させる「ねんねトレーニング」は、泣き続けてうまくいかず、「親と寝たいという生理的欲求は満たした方がよさそう」というスタッフのアドバイスで一時中断した。3歳になって再び挑戦。妻が「30分だけ一緒に寝るか、30分後に一緒に寝るか」と提案すると、2人は後者を選び、添い寝なしで眠ることに成功した。
分かってもらえる伝え方を論理的に学ぶ
時に1時間以上泣き続ける娘には、「計画的な無視(知らんぷり)」も試みた。以前はおろおろしてなだめるのに必死だったが、「言葉で教えて」と促すと、かんしゃくは減った。
「親のアイデンティティーを守ることも必要なんだなって思いました」と柳井さん。「母親学級で『抱き癖なんてつかないから、たくさん抱っこしましょう』と言われる。でも、毎回子どもの要求をのんでいては家事が回らない。子どもにどう伝えたら分かってもらえるか、ということを、論理的に学べました」
自己犠牲の上に成り立つ育児ではなく、自分たちも子どもたちも尊重する子育てに希望を見いだした。
心のてあて 虐待防止研究の現場から
児童虐待を食い止めるには保護者側の心を手当てすることが大切だとして、理化学研究所(埼玉県和光市)は、子どもとの関係に不安を持つ保護者らに、さまざまな支援プログラムで学んでもらう試みを行った。昨年5月までの約6年間実施した結果、たたくことが減るなど、受講者に変化が見られた。プログラムで何が変わったのか、受講した3人の保護者に前後を振り返って語ってもらった。
〈上〉〈上〉「一緒にいじめてただろ!」息子の言葉で目が覚めた 夫の暴力を見て見ぬふり、私も加害者だった
〈中〉怒鳴る母のようにならないと誓ったのに… 「支配」から抜け出したい 理研のプログラムで私は変われた
〈下〉双子のかんしゃくに疲れ果てたが…「発達段階に合った交渉」で親も子も尊重する子育てへ