HPVワクチン8年ぶりに積極勧奨の再開決定 厚労省、国内外の研究から有効性と安全性を認める
HPVワクチンと子宮頸がん
子宮頸がんは性行為などでHPVに感染することが主因となり、毎年約1万1000人がかかり、約2800人が亡くなる。国内では2種類のワクチンが定期接種で認められており、厚労省は接種で感染原因を50~70%防げるとする。海外では接種が広がっており、英国やカナダは8割超。比較的低いフランスでも24%が接種している。
英国調査 子宮頸がん発生率が87%低下
定期接種は勧奨停止後も続いており、対象は小学6年~高校1年生。再開により自治体から対象者に予診票(接種券)が個別に届くようになる。勧奨の停止期間に定期接種を受けなかった人に対しても、今後無料接種を検討する。
HPVワクチンは2013年4月に定期接種となったが、接種後に慢性疲労や歩行困難などの報告が相次ぎ、2カ月で勧奨が停止した。その後接種率は1%前後で推移しており、海外と比べて低い。
安全性について、2015年に名古屋市は15~21歳の約3万人を調査。「すぐ疲れる」「ふつうに歩けなくなった」など24の症状についての経験や時期を聞き取りした結果、ワクチン接種の有無による差は見られなかった。また今月発表された英国の研究チームによる追跡調査で、12~13歳でワクチンを打った群は、未接種群に比べて子宮頸がんの発生率が87%低く、予防効果が示された。
専門部会はこうした研究から「有効性のエビデンス(証拠)が確認され、安全性も特段の懸念がない」とし、「積極的勧奨の差し控え終了が妥当」と結論づけた。
全国4地裁で係争中 「関連性は不明」
接種後に日常生活に支障をきたすような健康被害が出た場合、接種との因果関係が示されなくても、医療費などが支給される可能性がある。
一方、接種後に症状が出た約130人が国と製薬会社に損害賠償を求めた訴訟は全国4地裁で係争中。厚労省は「国内外の調査で接種後の多様な症状と、ワクチンとの関連性は明らかになっていない」としている。
「自民党内で『HPVワクチンは性の乱れにつながる』と抵抗があった」が…コロナワクチンの広がりが追い風に
「ようやく」政府関係者が明かす背景
HPVワクチンを巡っては2013年、接種後に原因不明の歩行困難や強い疲労感を生じた女性たちがメディアで報じられ、社会問題化。定期接種開始から勧奨が2カ月で止まった。
その後、こうした「多様な症状」とワクチンとの関連性を否定する研究が進んだが、勧奨は8年間止まったままだった。
昨年以降、スウェーデン、英国で子宮頸がんの予防につながったとする追跡調査の研究が相次いで発表され、厚労省予防接種室は「有効性のエビデンスが出て、議論の素地ができた」とする。
しかし、ある政府関係者は「自民党内の保守的なグループが、HPVが性行為を通じて感染することから接種が『性の乱れ』につながると長く抵抗していた」と背景を明かし、「新型コロナのワクチン接種でワクチンそのものの効果を実感できるようになるなどして、ようやく議論ができる環境になった」と話した。
親側に不安 政府がデータを示すべき
厚労省によると、因果関係が分からないものや、すぐに回復したものを含め、接種後に重いアレルギー症状や神経系の症状が出た報告は1万人当たり5人。一方、子宮頸がんになる人は1万人当たり132人という。
接種を推進する医師でつくる「みんパピ!」は今年8月、HPVワクチン未接種の高校1年生188人にアンケートをすると、「接種したい」と「接種したいと思わない」がともに約3割で拮抗(きっこう)。未接種の高校1年女子を持つ親212人に聞くと、それぞれ13%、51%で、親の方が抵抗が強かった。
東京都杉並区の下平レディスクリニックの中島由美子院長は「最近、接種の相談にくる子どもや保護者が増えている」としつつ「接種後に症状が出た人のテレビ映像などから、副反応を怖がっている保護者には『安全だ』というだけでは理解されないだろう」と指摘。「政府には正確なデータを示して、接種を検討してもらえるようにしてほしい」と話した。