男児死亡から2年でようやく…神奈川県立こども医療センターが会見し謝罪 外部調査委は「術後管理に問題」 

志村彰太 (2023年9月8日付 東京新聞朝刊)

記者会見で謝罪する神奈川県立こども医療センターの黒田達夫総長(右から2人目)ら=横浜市で

 神奈川県立こども医療センター(横浜市南区)は7日、2021年に手術後の入院患者が死亡した医療事故を巡り、初めて記者会見を開いた。黒田達夫総長は「家族に深い悲しみとつらい思いをさせた。寄り添った適切な対応もできず、おわび申し上げる」と謝罪した。

便などを採取せず「死因は不明」

 この医療事故で犠牲になったのは、先天性疾患がある男児。2021年9月28日に入院し、10月6日に形成外科の手術を受けたが、3日後からけいれんや発熱、嘔吐(おうと)、下痢を繰り返し、11日に死亡した。

 その後に設置された外部有識者を含む院内事故調査委員会は、手術自体は成功したものの、術後管理に問題があったと指摘。容体急変時は心肺蘇生に習熟した医師が配置されておらず、緊急時に即応態勢を取る仕組みも整っていなかったとして改善を求めた。一方、症状からは感染症が疑われるものの、病院が患者の便などを採取・保存していないため、死因は不明とした。

病院側は「週末で態勢が手薄に」

 事故があったのは、院内でレジオネラ菌や薬剤耐性菌が検出されるなどして、県議会などから衛生対策を問題視されていた時期と重なる。それにもかかわらず、感染症を疑わなかった理由について、黒田氏は「発熱や下痢などは手術後に一般的にみられる症状だった」と釈明した。

 技術に習熟した医師を配置していなかったことについては「態勢が手薄になる週末だった。(執刀医と術後管理を担う医師の)チーム医療が機能しなかった」と語った。

事故後「迅速対応システム」導入 

 こども医療センターは事故後、緊急時に一定の要件を満たすと小児救急のチームが駆けつける「迅速対応システム(RRS)」を導入した。今後、小児救急や総合診療の医師を追加で採用する方針。

 会見は、こども医療センター運営者の神奈川県立病院機構と共同で行った。

県立病院機構の隠蔽体質が浮き彫りに

 神奈川県立こども医療センターで2021年に起きた医療事故を巡り、浮き彫りになったのは、運営者の神奈川県立病院機構の隠蔽(いんぺい)体質だ。7日に記者会見を開くまで、発生から2年近くも詳細を伏せていただけでなく、設置者である県への報告も後回しにしていた。

再発防止策も黒塗り

 会見は両者が共同で行ったが、機構の理事長は姿を見せなかった。公表が遅れた理由を問われると、センターの黒田達夫総長が「丁寧に医療事故の確認を進め、公表内容の調整にも時間を要した」と釈明した。

 機構は今年4月13日付で事故調査報告書を作成し、5月16日に遺族の意見を付して完成させている。ただ、「遺族が内容に納得していない」ことを理由に公表を先送りし、県への提出も見合わせた。一部の県議から対応を問題視され、県からも請求されて6月8日にようやく届けたが、なお「公表する範囲の調整が必要」と主張。概要を明らかにすることにも難色を示したという。

 東京新聞は県条例に基づいて報告書の開示を請求し、8月29日に入手したが、既に県議会で明らかにされた再発防止策や、院内の態勢不備を指摘した記述など、個人情報とは無関係の部分まで黒塗りだった。機構は7日の会見で「遺族の意向確認が済んでいなかった」と説明したが、遺族は報告書が完成した当初から公表を望んでいたとされる。非開示の範囲は県に一切相談せず、独自に判断し、開示時期も期限最終日まで遅らせた。

 県立の医療機関の問題でありながら、県がこの間、公表の時期や方法などに関して指導力を発揮する場面はなかった。県立病院課は「機構の情報公開について、自主性を重んじている」と述べるにとどまる。

 7日に開会した県議会定例会では、県の関与のあり方も議論になる可能性がある。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年9月8日