通園バスにシートベルトを(1)危険な事故は起きているのに、なぜ義務化しない? 国は「幼児が外すのは難しい」
横転、パニック…園児は飛ばされ、割れたガラスが体に刺さった
「子どもたちがみんな泣いて。パニックだった。とにかく助けなきゃと必死だった」。女性保育士は通園バスの横転事故を振り返り、涙をぬぐった。「今でも思い出すとつらくて」
事故は2016年秋の午前8時ごろ、埼玉県北部で起きた。定員22人のバスに、3~6歳の園児11人とこの女性保育士、運転手が乗車。見通しのよい十字路で、軽乗用車がバスの運転席側後方に衝突した。
バスは助手席側が下になる形で横転。助手席側の窓ガラスは割れ、園児たちは席から体が飛ばされた。ガラスが腰や足の裏に刺さったり、割れた窓から脚が外に飛び出たり。女性保育士は無我夢中で、近所の人と後部の非常用扉から園児たちを助け出した。救急車3台で搬送され、腰にガラス片が刺さった子は手術を受けた。園児全員と女性保育士が負傷したという。
「シートベルトつけてほしい」要望はメーカーに断られていた
この保育所は15年に通園バスを購入した際、メーカーにシートベルトをつけてほしいと要望していた。ところが「ベルトはない」と断られたという。「シートベルトがあれば体が飛ばされず、けがは打撲で済んだかもしれない」と女性保育士。男性園長も「命が無事だったのは不幸中の幸い。シートベルトは必要だ」と力を込めた。
通園バスなどの「幼児専用車」にはなぜシートベルトがないのか。国土交通省が13年にまとめたガイドラインでは、幼児はベルトを外すのが難しく、緊急時の脱出が困難だと指摘。幼児は年齢によって体格がさまざまで、ベルトの高さなどの設定が難しいことも理由に挙げる。
義務化されず→自動車メーカー「オプション装備もできない」
その結果、メーカーはベルト付きの通園バスを製造していない。大手のトヨタ自動車や日産自動車、三菱ふそうトラック・バスは本紙の取材に、オプションとしての装備もできないと説明する。
一方で、日本自動車研究所は17年、3~5歳児は成人用のシートベルトでも着脱に時間はかからないとの研究結果を公表。一部の保育所では、面ファスナー式の簡易ベルトを独自に取り付ける動きがある。
幼児専用車とは
幼稚園や保育園の送迎などに使われる子ども専用のバス。座席や乗降口の寸法などが道路運送車両法の保安基準で定められ、車両に「幼児バス」と書かれた黄色い三角形のマークを付ける。台数は全国で約1万7800台。
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