園庭のない保育所が増えているのはなぜ? 都心のジレンマ、親は複雑

, (2016年3月27日付 東京新聞朝刊)
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保育園の近所の公園を元気に駆け回る園児たち=東京都港区で(沢田将人撮影)

 都市部で園庭のない認可保育所が増えている。待機児童問題がより深刻な都市部では保育所の増設は急務だが、園庭の確保は都心ほど難しいというジレンマを抱える。専門家は「数を増やすことも大事だが、母親が安心して子どもを預けるには施設の充実は必要だ」と指摘する。

文京区・港区は20%台「地価が高く、ビル入居が多い」 

 本紙は今年2月、東京23区を対象に「保育緊急アンケート」を実施。認可保育所の数は10年前の1.6倍に増えた一方、国の基準を満たす広さの園庭をもつ保育所の割合は82%から60%に大きく下がったことが分かった。

グラフ 東京23区の認可整備所数と園庭保有率

 調査は各区に対し、2006年4月と11年4月、今年4月時点で、認可保育所の総数と、園児1人当たり3.3平方メートル以上の園庭があるなどとする国の基準を満たす保育所数をそれぞれ質問。私立の認可保育所を集計していないため算出できなかった江東区を除く22区のうち、06年は基準を満たした園庭をもつ保育所の整備率が70%を超える区が16区あったが、今年は4区にとどまった。

 整備率が22%と最も低かった文京区では、06~16年に認可保育所を31カ所増やしたが、基準を満たす園庭のある施設はなかった。保育所数は増えたが、入所希望者がそれを上回り、区の担当者は「(園庭の確保よりも)まず保育所の整備を優先しなくては」と話す。整備率29%と低い港区の担当者も「地価が高く、私立の認可保育所では民間ビルに入居するケースが多いため、園庭が確保しづらい」と説明する。

小学校の施設を借りたり、工夫はしてるけど…

 都市部では、街の公園で保育士と一緒に遊ぶ子どもたちの姿がよく見られる。

 港区のビル2階にある「太陽の子 南麻布保育園」の樋口千佳園長(55)は「保護者から『天気のいい日は外に連れて行ってほしい』という要望は多い」と明かす。午前中は毎日のように子どもたちをエレベーターで1階まで降ろし、近くの公園などに散歩に行く。雨の日はビルの階段を上り下りして、気分転換を図ることもある。

 夏場のプール遊びで閉校した区立小学校の施設を借りたり、運動会は別の区立小学校の体育館で開いたりしている。外に出にくい分、英会話やリズム体操など室内活動の充実も図る。

 また、港区は昨年10月に開設された区立しばうら保育園に、広さ900平方メートルの屋根付きの園庭を設け、他の保育所の子どもたちも利用できるようにした。

「まず入るのが第一。園庭まで求められない」

 子どもを預ける親の胸中は複雑だ。文京区の保育所に長男(5つ)と次男(2つ)を通わせる会社員阪田昌子さん(42)は「子どもたちは成長するにつれ、活発になっている。園庭も子どもが思い切り体を動かすには狭い」と感じる。小学校のグラウンドを借りるなどの保育所の工夫を評価しつつも「認可保育所に入れるかどうか厳しい中では、まず入ることが第一。広い園庭まで求められない」と、もどかしい気持ちを抱える。

 不安はあっても、施設の充実を訴えにくい親の思いに、育児と仕事の継続に詳しいジャーナリストの小林美希さんは「親が保育所に不安があると、安心して仕事を続けられず、辞めてしまうこともある」と指摘する。乳幼児を近くの公園へ散歩に連れ出すにも、見守りの保育士を増やす必要があるといい、「施設の充実や保育士の増員には財源が必要。補助金を出す地方自治体もあるが、国が責任を持つべきだ」と話す。

国の基準は「公園、広場で代替できる」

 園庭の広さに関する国の基準には「近くに公園や広場があれば代替できる」とのただし書きが付いている。さらに公園などについて、待機児童の問題が注目されるようになった2001年に政府が地方自治体に対し「移動にあたって安全が確保されていれば、必ずしも保育所と隣接する必要はない」と文書で通知した。これが園庭の面積基準を満たさない施設が増える要因になっている。

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