〈パリ特派員の子育て通信〉「まあそんなこともある」適当で寛容…だから安心!
毎朝、幼稚園の前にベビーカーがずらりと並ぶ。赤ちゃんを連れて園児を送りに来た親たちだ。皆、歩道にベビーカーを止めると、教室まで入っていく。前年度から娘と同じクラスのアストリッドちゃんが、弟を抱いた背広姿のお父さんと教室にやってくるのも見慣れた光景になった。
フランスは欧州連合(EU)内でもっとも出生率が高い国のひとつだ。一人の女性が生涯に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」は2010年の2.03からやや減ったものの、18年は1.87。日本の1.42に比べて随分と高い。昨年同級生だった26人のうち、知るだけでも20人にきょうだいがいた。
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移民大国のフランス。これまでは「多産の移民家庭が出生数を押し上げている」と見なされていた。極右の政治家が「フランスが乗っ取られる」などと危機感をあおる理由にもされてきた。だが仏国立人口研究所が今夏に公表した報告書は、出産年齢の移民女性は全体の12%にすぎないと指摘。移民系の女性が出産する子どもの数の平均は、マグレブ(北アフリカ)出身で3.5人、中・南部アフリカ出身は2.9人、欧州系は2.0人という。報告書は「確かに外国出身の方が従来のフランス人に比べて出産数は多いが、人口のごく一部。国全体の出生数で見た場合、大きな影響はない」とし、他の欧州諸国に比べて出生率が下がっていないのは「生粋のフランス人も産んでいるから」とした。
フランス人が子どもを産もうと思う理由について、識者は「若い夫婦は、出産後も比較的早く仕事に戻れることや、子どもの教育費が抑えられていることを知っているからだ」と指摘する。利用料の補助制度がある子守り(ヌヌ)をはじめ、短時間子どもの面倒を見てくれるベビーシッターが、職場復帰を支える。三歳から義務化された幼稚園は公立が無料で、給食費や学童保育の利用料金も親の所得に連動する。習い事も安く済ませられる。
もちろん現実には育休中の手当が少ないために、やむなく短期間で職場復帰する人も多い。待機児童の問題もある。それでも、社会全体に子どもを温かく見守る空気があると感じる。娘と交通機関を使うと、よく他の乗客が席を代わってくれた。子連れで、肩身の狭さを感じたことはない。
そもそも、フランスで感じるのは「人は適当で、時に身勝手で、完璧ではない」という人間観。大人でも、商品の値段やお釣りを間違える店員もいるし、道を聞かれても見当外れの方角を答える人も。子どもだって、大人の思い通りにならないのは当然だろう。
10月に4歳になった娘は最近、どんどん口達者になってきた。私が注意しても、フランス語で「バー、ウィ(はいはい、そうですね)」と不満げに分かったフリをして「メ(でもね)」と続け、「アンクロワイヤーブル(信じられない)」と付け足す。相手に賛同すると見せ掛けて、自分の言いたいことはちゃんと言うフランス的な会話術だ。
私がパリに赴任してから2年が過ぎた。娘はフランス語がほとんど分からないまま幼稚園に入園したが、今や仲良しの友達が何人もいる。子育てでは「アンクロワイヤーブル」なことがつきものだ。それでも、妻と共に思い詰めることなく過ごせたのは、多少のことは「まぁ、そんなこともある」と受け入れるフランス社会のおおらかさに支えられたからだと感じている。
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東京新聞パリ支局の竹田佳彦記者(41)が、現地の子育てについてつづってきた連載は今回で終わります。