「こどもかいぎ」が対話の力をはぐくむ 保育園での実践を記録した映画公開 異なる考え認め合う経験を

(2022年7月29日付 東京新聞朝刊)
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こどもかいぎの様子を撮影する豪田トモ監督(右)

 自分の気持ちを言葉にできる一方で、友達の意見に耳を傾け、自分と違う考えも受け止められる―。小さな子どもを対象に、そんな対話の力を身に付けることを目指す話し合いの実践法がある。この「こどもかいぎ」の考案者で、1年間かけて取り組んだ保育園の様子をドキュメンタリー映画にまとめた映画監督の豪田トモさん(49)に、「かいぎ」の意義や園児の成長ぶり、大人の関わり方などについて聞いた。

発言を強制されず、何を話してもOK

 「どうしてけんかが起こるんだろうね?」。保育士が車座の年長児6人に柔らかい口調で投げかける。一人の女児が口を開く。

 女児「言葉で言えばいいのに、なんで鉄砲とか使うの?」

 保育士「どうすればいい?」

 女児「口で話せばいい」

 男児「けどさ、けんかしないと仲良くならない」

 別の男児「戦うんじゃなくて、握手したりして仲直りすればいい」

 発言を強制されることはなく、何を話してもいい。ある園児は思い付いたまますぐに言葉にし、別の園児は考え考え口を開く。やりとりを静かに聞いている園児もいる。映画の一場面だ。

共感したり、違う考えに気づいたり

 「こどもかいぎ」のルールはシンプル。5、6人の少人数で輪になって座り、テーマを決めて話し合う。自由に発言してよいが、友達の話を遮らずしっかり聞く。正解や答えはない。自分の考えを伝え、仲間の意見を聞いて共感したり、自分と違う考え方があると気づいたりすることが狙いだ。テーマは「夏休みの楽しみ」といった日常生活のことから、「どうして生まれてきたのか」という哲学的な内容まで何でもあり。

 「日本人がコミュニケーション下手なのは、単に場数の問題で、対話の習慣がないからではないか」と考えてきた豪田さん。カナダの保育園の「サークルタイム」や、スウェーデンの授業「ライフスキル」といった似た趣旨の試みを参考に、「こどもかいぎ」を考案。2018年度の1年間、「かいぎ」に共感し、実践した東京都内の保育園の様子をカメラに収めた。

イラスト こどもかいぎのルール

保育士が進行役に 初めは10分から

 保育園児の集中力が続く時間は短い。初めは10分程度から始めるが、慣れてきたら30分ほどの対話も可能になる。当初は、全く発言しない子や、考えをまとめられず延々と話し続ける子も。それでも自分の考えを言葉にし、友達の意見に耳を傾ける経験を積み重ねることで、回を追うごとに、気持ちを言葉にする力が伸びていったという。

 保育士は進行役としてサポートに徹する。しゃべり過ぎず、正解を出さなくてもいい。進行役を担当した男性保育士(32)は「考えていることを言葉にする力が、子どもにこんなにも備わっているのかと驚いた」と振り返る。「小さい頃から自分の考えを自分の言葉で伝えること。否定されない環境でこうした体験を重ねることが、後の人生に必ずいい影響を及ぼす」

1年間で目覚ましく変化した園児たち

 1年間の園児たちの変化は目覚ましく、保育士の仲裁なしに、言葉のやりとりで小さなけんかを解決していく力も徐々に付いていった。「うまく話せない子が逡巡(しゅんじゅん)する時間も豊か。安心できる場が、対話の力だけでなく、子どもたちの自己肯定感も育んだ」と豪田さん。「自分と異なる考えを認め合い、歩み寄る経験を子どもの頃から積んでほしい。皆がこの習慣を身に付けることで、問題解決に暴力という手段を用いることのない、平和な世の中に近づくと信じている」と期待を込めた。

 ドキュメンタリー映画「こどもかいぎ」は全国で順次公開中。公式ホームページでは上映館のほか、「かいぎ」を開くヒントも紹介している。

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