規制緩和で”保育の質”が下がってしまう 「常勤保育士1人→短時間勤務2人で可」国の待機児童対策に反発続々
「短時間勤務」の活躍を促進
規制緩和は、昨年12月に発表された国の新たな保育整備計画「新子育て安心プラン」で示された。
新プランでは、新年度からの4年間で約14万人分の保育の受け皿を整備。保育士確保のために「短時間勤務の保育士の活躍促進」が掲げられ、待機児童がいる市区町村で、各クラスで常勤保育士1人を必須とした規制をなくし、短時間勤務の保育士2人でもいいとする。厚生労働省は近く自治体へ通知する予定だ。
厚労省の担当者は「(資格を持ちながら就業していない)潜在保育士に多様な働き方を提供する」と説明する。保育士不足が深刻な中、東京都の2018年度の調査では、再就業の希望条件で「勤務時間」が76.3%、「雇用形態(パート・非常勤採用)」が56%だった。同省は「保育士が確保できずに子どもを受け入れられないなど、市区町村がやむを得ないと認める場合」と限定的な運用を想定しているとし、担当者は「質の低下を招くことがないよう調整する」と話す。
「子どもが安心感を持てない」
こうした国の規制緩和に保育現場や保護者らからは反対意見が相次ぐ。
全国私立保育園連盟は昨年末、常勤保育士の配置が「質の担保の最低限」だとし「子どもにとっては1日の保育の中で短時間保育士がコロコロ変わって落ち着かず、どの保育士にも安心感を持てない」と規制緩和に反対する意見書を出した。都内の保育所の園長は「待機児童を減らすための大人の目線。子どもの視点を忘れないで」と強調する。
「保育園を考える親の会」も「小学校の担任がパートタイマーであることが考えられないのと同じ」などとして撤回を求めている。
事業者も必ずしも歓迎していない。全国で認可保育所などを運営する会社の社長は「短時間保育士は早番や遅番を避ける人が多く、運用しづらい面がある。潜在保育士の掘り起こしにならないのでは」。
1歳児6人を1人で…重い負担
東京都の調査では、退職の理由に「給料が安い」「仕事量が多い」など、待遇面の問題を挙げる保育士が多くいた。
また、保育現場では、すでに短時間保育士が増え、毎月の保育計画や連絡帳の記入など、子どもと接する時間以外の業務が常勤保育士に集中しがちだという。
保育士1人がみる子どもの人数を定めた国の「配置基準」では、1歳児6人に保育士1人とするなど、ただでさえ負担が重い。コロナ禍では、感染リスクなど労働状況の厳しさが浮かんだ。
「保育園を考える親の会」の普光院亜紀代表は、常勤保育士のなり手が不足している現状を「保育現場の構造的な問題が変わらなければ、本質的な改善にならない」と指摘。「まずは配置基準の見直しや労働環境の改善が重要。保育士が余裕を持って業務や、質の向上に取り組めるようにすべきだ」と話した。
「新子育て安心プラン」とは
待機児童解消の国の新計画。地域の特性に応じた支援、魅力向上を通じた保育士の確保、地域のあらゆる子育て資源の活用—が柱。政府は2013年度からの7年間で約72万人分の保育の受け皿を整備してきたが、女性の就業率上昇などを受け、2020年は約1万2000人が待機児童になっている。新プランの財源は一部高収入世帯の児童手当を廃止することなどで捻出する公費と事業主拠出金を充てる。
コメント