高架下の保育園、増えてるけど…「騒音」が子どもに良くない! 専門家が基準作りへ
悩む保育士「電車の音で目を覚ますのでは」
基準案作りを始めたのは、熊本大工学部の川井敬二准教授(建築音響学)ら日本建築学会に所属する約10人の専門家。2013年に「子どものための音環境ワーキンググループ」を結成した。
「電車の走行音で昼寝中の子どもが目を覚ますのではと、はらはらする」「部屋中に響く子どもの声につられ、つい大声を出してしまう」。グループの一人、岩手大の船場ひさお特任准教授(音環境デザイン)が、幹線道路沿いのビルや鉄道高架下にある保育施設を調査する中で、保育士から聞いた声だ。
窓を開けられず空調フル稼働…その音も大きく
室内の音量を測定すると、窓を開けられないため空気清浄機や空調設備がフル稼働し、常に50デシベル前後の動作音が響く。電車やダンプカーなどが通過すると、さらに数値が約10デシベル上がった。10デシベル違うと、人の耳に聞こえる音の大きさは約2倍になる。昼寝時間や、子どもたちが静かに耳を傾ける絵本の読み聞かせ中には「かなり気になるレベル」だったという。
子どもが伸び伸びできるよう考えられた園舎デザインが裏目に出るケースも。部屋を分けず広いワンルームのまま使ったり天井を高くしたりした結果、子どもの声が響いて騒がしさが増す例もあった。
学校や幼稚園と違い、保育施設は「上限値」なし
学校や幼稚園の教室内の騒音については、文部科学省が50~55デシベルの上限値を定めているが、厚生労働省が管轄する保育施設は基準がない。「保育所保育指針」で、換気や採光などと並び、音の環境も「適切な状態に保持する」よう求めているが、具体的な数値は挙げていない。
海外では基準あり「子どもの聴力や学習意欲に悪影響」
海外では世界保健機関(WHO)が1999年、「環境騒音指針」の中で、騒音は子どもの聴力や学習意欲、理解度などへ悪影響を与える可能性があるとし、基準を定めた。学校、幼稚園、保育所の室内は、子どもがいない状態で35デシベル以下、音が響く時間(残響時間)も0.6秒程度にとどめるべきだとしている。
独、英、米国などにも同様の規定があり、外部からの音を遮ったり、中で子どもたちが騒ぐ声の響きを抑えたりする対策が設計段階から講じられている。
川井准教授は「大人でも騒々しい環境にいると、不快感や睡眠障害など健康に影響が出る。乳幼児も同じはずだ」と指摘。専門家が作る基準案は保育施設の設置場所の決定や設計の参考にしてもらいたいとし、18年度中の公表を目指す。川井准教授は「子どもが長時間過ごす保育室にも音響面の配慮が必要だという認識を広めたい」と話す。
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