4歳児30人に1人…保育士の配置基準「世界と比べ劣悪」 園バス置き去り対策に国の補助、でも現場は過重負担

坂田奈央 (2022年11月10日付 東京新聞朝刊)

 政府は静岡県の通園バス置き去り死事件を受け、来年4月から設置を義務付けたバスの安全装置の導入補助費など子どもの安全対策費として、2022年度第2次補正予算案に234億円を計上した。緊急的な対応を評価する声の一方で、保育現場は過重な負担や人手不足が深刻化しており、識者は子どもの命を守る抜本的な対策として、人員を増やすための保育士の配置基準の見直しを求める。

「装置だけでは安心につながらない」

 通園バスへの置き去り事故を防ぐため、政府はバス1台あたりの補助上限を、工事費を含め18万円と設定。対象は、全国の幼稚園や保育所、認定こども園などの通園バス約4万4000台。義務化の対象ではない小中学校や放課後児童クラブの約1万1000台には半額程度を補助する。

 保育士経験も持つ鶴見大の天野珠路教授(保育学)は「迅速な対策は良い」と歓迎しつつも「安全装置だけでは安心につながらない」と指摘する。

 保育現場が共通して抱えるのが、仕事量に対して人手が少ないことによる重い負担だ。

3~5歳で緩い基準 事故は年々増加

 日本の保育士の配置基準は3~5歳で大幅に緩い。保育士1人で見られる子どもの数は3歳児が20人で、4~5歳児になると一気に30人に増える。英国やドイツでは5歳児の場合、1人で見られるのは13人で差が大きい。

 全国の保育園や幼稚園などで、子どもが全治30日以上のけがや病気を伴う事故の件数は年々増加。2021年は6年前の4倍近い2347件に上った。

 天野氏は「日本の配置基準は世界と比べても明らかに劣悪。安全にはこの人数では不十分だ」と懸念。「子どもの意志や自由な発想を重んじる保育はできず、一人一人の子どもに目をかけ手をかけるためにも保育人材の層を厚くしたい」と述べる。

「子育て予算を倍増」とは言うが…

 保育士の配置基準はこれまで、ゼロ歳児から3歳児では配置を手厚くする見直しがあったが、4、5歳児では1948年以降、70年以上も変わっていない。

 国の補助金は原則として、配置基準に応じて支給される。子どもの命を守ろうと、基準より多い人員で対応をすれば、その分、園側の人件費が増えることになり、増員は容易ではない。

 岸田文雄首相は子育て予算を倍増すると繰り返しているが、保育士の配置基準見直しに関しては10月の参院予算委員会で「保育の質と予算とのバランスは考えなくてはならない」と述べるにとどめている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年11月10日