相次ぐ保育士の虐待事件、不適切な行為を防ぐには? 専門家2人に聞きました

藤原啓嗣、海老名徳馬 (2022年12月24日付 東京新聞朝刊)

 静岡県裾野市の認可保育園で保育士が園児を虐待したとされる事件は、多くの議論を呼んでいる。不適切な保育が起こる背景にはどのような状況があり、防ぐためにどんな対策が考えられるか。保育や虐待問題に携わる専門家に聞いた。

国は保育士の配置基準の改善を NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」理事・高祖常子さん

高祖常子さん

子どもの「嫌だ」…どう声を掛けるか

 ほとんどの保育士はコロナ禍で消毒などの仕事が増えたりしてストレスを抱えていても、丁寧に子どもたちと接しているはずだ。子どもの成長、発達、人権を学んだはずの保育士がカッターナイフを突きつける、宙づりにするなどしたというのは信じられない。

 保育士は「しつけのつもりだった」と釈明していたようだが、しつけと暴力は違う。しつけは、子どもが周囲と対話するなど自分で考えて行動できるように支援することであり、上から威圧する行為ではない。

 保育の現場では「外遊びから帰りたくない」「給食を食べたくない」など、子どもたちのさまざまな「嫌だ」に直面し、保育士からはどう子どもに声を掛けるか悩むと相談を受ける。先輩保育士は「みんなで列車ごっこしながら帰ろう-はどう?」など、気分を変えやすい声掛けを助言してほしい。研修などで情報交換しながら不適切な保育を減らす風土づくりが大切だ。

配置基準のせいで「統制する保育」に

 不適切な保育を保護者が見破るのは困難。親と離れたくない甘えから園に行く時に泣いて嫌がることもあるだろうから。ただ、園の雰囲気を知るために入園前の見学は必ずしてほしい。入園後も気になる点は職員に相談するなど、自分の子どもを気に掛けて。

 国には保育士の配置基準の改善を求めたい。1人で多くの園児を見ていると、統制を取るような保育になりがちだ。地域によっては定員割れの園もある。保育単価の支給基準も見直し、一人一人を尊重した保育を始める契機になればいい。

高祖常子(こうそ・ときこ)

 3人の子どもを育て、育児雑誌などに子育てアドバイザーとして記事を執筆。保育士、幼稚園教諭の資格を持つ。

第三者のチームが見守るべき NPO法人「埼玉子どもを虐待から守る会」理事 小宮純一さん

小宮純一さん

氷山の一角…告発を守る体制が不十分

 保育園や認定こども園で職員による虐待の報道が相次いでいる。これは「専門職による虐待」に分類でき、明るみに出るのは氷山の一角。多くは隠蔽(いんぺい)されて出てこないと考える。

 保育園などで同僚が不適切な保育を発見したとしても、それを告発した職員を守るような体制は十分ではない。行政が認可保育園の普段の様子を常に監視するのも難しいだろう。

 各自治体は、保育園がどのような保育をしているかを客観的に判断する弁護士や医師、ソーシャルワーカーらを含む第三者のチームを設けるべきだ。平時は園の業務を見守り、不適切な保育があった時は全園児や保護者への聞き取りなどを担ってほしい。

職務規定を厳しくしても、解決しない

 1997年の児童福祉法の改正で、保育所の入所制度は市町村が入所先を決める「措置制度」から、利用者が入所先を選ぶ「選択制」に変わった。市町村が全て責任を持っていた時代から比べると、公の責任は薄まっている気がする。

 一連の報道で問題になった保育士が、なぜ子どもをこのような理不尽な目に遭わせたのか。養成の課程で、児童福祉法を含め、子どもの権利について深く学んでほしいし、園にも、そういった研修を開く余裕があればいいのだが。

 裾野市の虐待では、問題の発覚から、介入、子どもや保護者のケア、問題の保育士への対処までの市の対応も遅いと感じた。行政側の子どもの権利への意識も摩耗している。保育士の職務規定を厳しくして解決する問題ではないと思う。

小宮純一(こみや・じゅんいち)

 新聞記者時代から虐待など子どもの問題を追う。ジャーナリストとして、児童相談所などをテーマに活動。

コメント

  • 給与あげれば改善するのかなあ。そもそも人もいないようだし。あんまり単純な解決策はない気がするのだけどどうかな。
    疑問あり --- --- 
  • もうそんな実態があるのだったら保育園なんてとても自分の子供など預けられたもんじゃないとむしろ思うのが普通だと思うのだがそれでも預けたいのか。もし方法があるとすれば保育士の環境や待遇を改善する、そのため
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