「こども誰でも通園制度」は誰のため? モデル事業の自治体間で大きなばらつき 保育士不足も課題に
首都圏・中部20自治体にアンケート
子育て世帯を支援するため、生後6カ月~2歳の子どもなら誰でも定期的に保育施設を利用できることを目指す「こども誰でも通園制度(仮称)」のモデル事業を巡り、東京新聞が首都圏と中部地方の20自治体にアンケートを実施したところ、複数回答で8割以上の自治体が「保育士を含めた職員の確保」と「職員の負担増」を課題に挙げていた。自治体の受け入れ基準などにもばらつきがみられた。
こども誰でも通園制度
親が就労しているなどの要件を満たしていなくても、誰もが定期的に保育施設へ通えるようにする制度。行政の支援が届きにくい親子が孤立し、虐待などにつながることを防ぐ狙いがある。国の少子化対策の柱の一つとされ、こども家庭庁は、月10時間までの枠で、時間単位で利用できる仕組みを想定している。区市町村が指定した保育所や認定こども園、幼稚園などで導入される見込み。来年度からの本格実施を前に、現在は31自治体50施設でモデル事業が行われている。保育園などに通っていない5歳以下の子どもは、同庁の推計では約152万人おり、2歳以下が9割以上を占める。
2024年度から全国でスタート予定
国は、虐待などが起きないことを目的に、本年度から全国31自治体で「こども誰でも通園制度(仮称)」のモデル事業を実施。年度内に自治体数を増やして次のステップに進み、2024年度以降、全国一律で制度を導入する方針。
自治体が複数回答で課題に挙げたのは、「保育士を含めた職員の確保」と「職員の負担増」の他に、「利用者の選定」(15自治体)「一時保育との区別」(13自治体)「予算の確保」(同)と続いた。モデル事業は、自治体によって対象年齢が異なる。
広く受け入れる自治体では応募殺到
利用人数は首都圏で多く、川崎市の574人が最多。中部地方では福井県敦賀市の10人が最も多く、静岡県島田市は0人だった。
自治体はホームページなどでの公募のほか、保健師らを介して支援の必要がある世帯に利用を呼びかけているが、対象の選定などに違いがあった。未就園児を広く受け入れている自治体ではHPから応募が殺到。川崎市の担当者は「定期利用できない事例もある」と話し、東京都文京区は140人がキャンセル待ちしている。
品川区と名古屋市では「1人」だけ
一方、品川区や名古屋市は育児不安を抱える世帯に対象を絞っており、利用はいずれも1人だった。
名古屋市の担当者は「抽選にすれば利用は増えるが、一時預かりとのすみ分けが不明瞭で、福祉の意味合いが薄れる」と語る。
幅広くカバーか、ハイリスク家庭か
こども家庭庁の担当者は「まだどういう制度にするか見えていない。自治体間で大きな差が出ていることは把握しているが、検証の途中。一定のルールを設け次のステップに進みたい」と話す。
国立成育医療研究センター研究所社会医学研究部の加藤承彦室長(幼児教育・母子保健)は「新制度が子育て世帯を広くカバーするのか、ハイリスクな家庭のためなのか定まっておらず、目的が見えない。モデル事業の効果を検証して方向性を定めなければ、現場が混乱する恐れがある」と警鐘を鳴らす。
【11月10日追記】10日に閣議決定された2023年度補正予算案では、「こども誰でも通園制度」の導入に向け、モデル事業に91億円、システム構築のために25億円がそれぞれ計上されました。
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来年度には全国で本格的にスタートする予定です。保育士不足など、解決するべき課題は何かを探りました。
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