公立保育園をなくさないで 練馬区で閉園と私立誘致に住民反対 民営化の波で「調整弁」にしていいのか
老朽化や近隣の私立園誘致が理由
「閉園は寝耳に水。実績と信頼のある公立園は保護者に人気で、強引な民営化による子どもへの影響も心配だ」。東京新聞に情報を寄せた「練馬区立谷原保育園を守る会」の山口真史さん(56)はそう話す。
谷原保育園は1966(昭和41)年に開園。築55年以上の平屋建てで、改修をしていない園舎では区内で最も古い園の一つ。定員は1~5歳児の95人だ。
保護者が計画を知ったのは2021年11月。練馬区が近隣に土地を取得し、誘致した私立認可保育園を2024年度に開園するため、谷原は在園児が卒業する2027年3月末で閉園すると伝えられた。
練馬区保育計画調整課の山口裕介課長は「施設の老朽化で大規模改修や改築が必要なこと、すぐ近くに私立保育園を誘致できる見通しが立ったことから、閉園を決めた」と説明する。
転園が条件の受け入れだったが…
反対の住民らが反発し2022年1月以降、計画撤回を求める陳情署名延べ2万4000筆余を区議会に提出した。
待機児童対策などで練馬区は昨年4月、1歳児12人を「1年後に新設私立園への転園」を条件に受け入れたが、この1歳児の保護者たちも昨年9月に「廃園再考」などの要望書を出した。
1歳児のある保護者は「復職を前に、転園条件を承諾しなければ申し込みができない状況だった。ようやく親も子も慣れたのに転園の負担は大きい」と話す。
また、練馬区が1日に公表した2024年度の保育園の申し込み状況によると、谷原地域を含む地区では1~2歳児の入園倍率が各園で数倍~最大20倍超で、多くの待機児童が出る恐れもある。
区担当者「再検討する考えはない」
この4月には、谷原保育園の北側約30メートルに私立保育園が開園予定。0~5歳児の定員は102人で、敷地面積は約1.3倍になる。障害児や0歳児の受け入れ、延長保育もするという。
1月からは、保護者の要望を受け新設園の担任予定の保育士が谷原保育園に出向いて保育に参加するなど、転園の引き継ぎも始めている。山口課長は、閉園を再検討する考えはないとした上で「理解を求めながら丁寧に対応したい」と強調した。
守る会の山口さんは「区は説明しているというが、2027年3月に閉園する理由ははっきりしない。2園が併存する形で区には考え直してほしい」と求めた。
全国的に公立園減少 保育の質を上げる役割があるのに…
公立保育園は行政の財政負担が大きいこともあり、全国的に減少傾向だ。東京都小金井市では専決処分で廃止を決め、裁判所が「ノー」を突き付けるなど、公立園の廃止を巡り各地で問題も起きている。
厚生労働省の資料によると、2014年4月時点で全保育園のうち公立の割合は40%ほどだったが、2023年3月では2万3908園のうち30%(7291園)に。都内では公立の割合はより低い。
背景には、国が保育への民間参入を促してきた経緯がある。2000年に株式会社などの参入を認め、2004年度には、区市町村が負担する公立園の運営費は全額に引き上げられたが、私立園への負担は4分の1のまま据え置かれた。
保育問題に詳しいジャーナリストの小林美希さんは「待機児童対策で私立を急ピッチで造った結果、少子化により一部で保育園余りが起き、公立を調整弁にする動きが出ている」と指摘。公立には、セーフティーネットや民間の手本となって保育の質を上げる役割があるとした上で「公立・私立ともに、行政がきちんと管理監督できる体制が重要」と話した。
練馬区の保育園民営化
認可保育園206園のうち、区立は60園。練馬区は「多様な保育ニーズに応えてサービスの充実を図るため、民間活力を導入する」(担当課)との方針で、2005年から運営業務を民間事業者に委託する「公設民営」園を増やした。現在、区立60園のうち公設民営は28園。
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