元横綱 鶴竜力三郎さん お風呂、洗濯、寝かしつけ…父親修行はまだ序ノ口か序二段です

海老名徳馬 (2021年6月27日付 東京新聞朝刊)

元横綱の鶴竜力三郎さん(禰宜田功撮影)

父の言葉「貧乏のまま死んでいくのは…」

 子どもの頃に住んでいた家は、部屋が2つのアパート。お父さんはモンゴル国立科学技術大の教授ですが、全然お金持ちではありません。日本の大学の先生とは天と地ほど違う。寝る場所はお母さんと3歳上のお姉さん、私の3人が寝室で、お父さんはリビングのソファでした。

 お母さんも鉄道のチケット売り場などで働いていて、私はお姉さんと留守番することが多かった。モンゴルでは掃除は子どもがやるもの。私は「洗い物は嫌だから違うところをやらせて」とお姉さんに甘えていました。

 お父さんは「勉強しろ」とはあまり言わず、私がバスケットボールやテニスなどのスポーツをする方が喜んだ。若い頃、体が丈夫でなかったらしく、その分息子にやってほしかったようです。「貧乏のまま死んでいくのは悲しい。一度きりの人生、いい生活ができるように頑張らなきゃだめだ」とも言われました。

6歳、4歳、1歳 いるだけで楽しいです

 テレビの衛星放送で大相撲を見て「体が小さくても技で勝てる。私もやってみたい」と思ったのは14歳の頃。相撲関係者に手紙を出す時は、私が書いた文章をお父さんの同僚が日本語に訳してくれました。当時のモンゴルは社会主義から資本主義に変わって混乱していた。恵まれた環境だったら日本に来ていません。大相撲で活躍していたモンゴル出身の旭天鵬(きょくてんほう)関らのように、強くなって親を楽にさせたいと、夢を持って来たわけです。

 引退してから家族と過ごす時間が増えました。子どもは6歳の長女と4歳の長男、1歳の次女。私のように10代で家を出て外国に行くかもしれない。小さいうちに楽しい思い出をたくさんつくってあげたい。今は子どもたちと一緒にいるだけで楽しいです。

 子どもたちが幼稚園から帰ってきたら、妻がご飯を作っている間に、私がお風呂に入れます。料理以外は掃除も洗濯も洗い物もしますね。ここ1年くらいは長女を寝かしつけるときに一緒に寝ています。長男は妻と。寝たら子ども2人を一緒にしてあげるんですが、朝になるとなぜか2人とも私のベッドにいます。

相撲の弟子と一緒で、個性に合わせて

 私のことを両親が応援してくれたように、私も子どもたちがやりたいことをやれるよう精いっぱい背中を押してあげたい。相撲で弟子を育てるのと一緒で、個性に合わせて教えるのが大切かなと思います。「やりなさい」ではなく、「これがいいんじゃないの」と見つけてあげたい。

 親としては日々の失敗から成長しているところ。あんなに怒らなくてもよかった、強く言いすぎたとか、本当に大変です。番付でいえば、私はお父さんとしてはまだまだ序ノ口か序二段。子どもが大きくなればもっと大変だろうし、いろいろ勉強しないといけないです。

第71代横綱に昇進し奉納土俵入りする鶴竜=2014年7月5日、名古屋市の熱田神宮で

鶴竜力三郎(かくりゅう・りきさぶろう)

1985年、モンゴル・スフバートル出身。2001年11月の大相撲九州場所で初土俵。初優勝した14年3月の春場所後に昇進し、第71代横綱に。優勝6回。今年3月に引退し、陸奥部屋付きの親方に。来月4日から始まる名古屋場所は親方として初めて迎える地方場所となる。