俳優・声楽家 上原理生さん 3人兄弟、父の背中を見て「好き」を追究
穏やかな父、道理に厳しい母
両親と2つ上の兄、5つ下の弟の5人家族です。父はドイツ語の翻訳家。主に自動車など工業関連の翻訳で、分厚い辞書を傍らに、いつも家で仕事をしていました。穏やかで優しく、怒られた記憶はほとんどありません。学校から帰ると必ず父がいる、という安心感がありました。
母は食品会社や金融機関などでパートをしていました。道理や礼儀を重視し、わが家では母が怒り役で、父がなだめ役です。母は料理上手でもあります。小学生のころ父親を亡くし、家族の食事を作る役目だったそうです。よく「死ぬ時に『ああ、いい人生だった』と思えるように生きようね」と言っていました。
ドイツ人の伯父さんがいる理由
毎晩、家族全員で食卓を囲み、たくさん話をしました。父は学生運動に参加していたそうです。卒業前になると、仲間がみんなスーツを着て就職活動を始めたことに違和感を覚え、大学を1年休学。横浜で船に乗り、シベリア鉄道で欧州へ向かったそうです。
一番好きになったのがドイツの文化や言葉。帰国後、ドイツ語学校に就職。その後転職し、ウィーンの日本大使館で働いた後、日本で以前のドイツ語学校の学長と再会。彼の立ち上げた翻訳会社に就職し、その縁で、社長の日本人妻の妹だった母と知り合ったそうです。だから、ぼくの伯父さんはドイツ人なんです。
正月など両家族で食卓を囲む時、父と伯父さんがドイツ語で話していて、何を話しているんだろうと思っていました。今はぼくがドイツ語で歌うこともあり、父に発音を教わることも。不思議な巡り合わせですね。
高2で音大進学勧められ、両親は…
ぼくは小さいころから歌が好きで、「絶対にロック歌手になる」と言っていました。外でも歩きながら歌ったので、「恥ずかしいからやめろ」と兄によく言われたものです。高校に入り、音楽の先生の勧めで合唱部に入部。1年後、先生は音大を目指すよう勧めてくれましたが、既に兄が美大に進学していたので、さすがの両親も「そんな余裕はない」と反対。断る気満々で先生との面談に臨みましたが、先生に説得され、最後は「よろしくお願いします」と応じていました。
兄は美大を卒業後、写真コラージュなどの作品を発表する芸術家に。弟は日本茶の茶葉が好きで、専門の資格を取得。今は一般の会社員ですが、将来は日本茶の店をもつのが夢のようです。兄弟3人とも好きなことを突き詰めているのは、父の背中を見て育ったからだと思います。
今もみんな仲良く、ぼくの舞台も見に来てくれます。母はイタリアやスペインに行くのが夢だそうで、ぼくも父をもう一度、思い出深いドイツやウィーンに連れて行ってあげたい。新型コロナの感染拡大が収まり、家族で欧州を旅する日が来るといいですね。
上原理生(うえはら・りお)
1986年、東京都生まれ、埼玉県育ち。東京芸術大声楽科卒業。2011年、ミュージカル「レ・ミゼラブル」でデビュー。以降、「ロミオ&ジュリエット」「ピアフ」などに出演。7月29日に東京を皮切りに始まるミュージカル「ミス・サイゴン」に出演する。
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