今こそ本気で子どもと遊ぼう 楽しさの共有が生きる希望になる 富山「子ども遊ばせ隊」代表の提言
真面目な子どもは忖度して「自粛」してしまう
学校の臨時休校や外出自粛が続く中で、子どもたちは友人と会えなくなり、遊び場の利用も制限されています。家の前で縄跳びしたら、近所の人に「家にいなさい」と注意された、といった声も聞きました。子どもが遊ぶことへの視線が冷たいと感じます。
大人の不安や恐怖を敏感に感じ取り、心身共に緊張する子も少なくありません。「こんなときに遊んでいいの?」と、親の気持ちを忖度し、真面目に「自粛」する子もいるでしょう。
おもちゃやタブレット端末を渡し、テレビを見せるだけ、という家庭もあるでしょう。でも、環境を整えて見守るだけでは、子どもは安心できません。大事なのは親が一緒に遊ぶこと。1日に30分でも、10分でもいい。「遊んであげる」ではなく、本気で遊んでください。
他愛ない遊びでも「ここにいていい」と思える
他愛のない遊びでいいのです。例えば、私がよく使うのが大道芸で使われる皿回し。持ち運びが便利で自宅でできますし、練習すればすぐ回せるので、取り組みやすいです。大人が皿を回すと、子どもは「かっこいい」と見直し、子どもも回せると、目を輝かせます。一人でするより、喜びは何倍にも膨れ、自信になります。親子の信頼関係も強まります。
皿回しの道具がなくても、けん玉やカードゲームでも、何でもいい。一緒に遊ぶ楽しさを共有できる関係が築ければ、洗濯物をたたむついでにタオルを積み上げるのも、床をぴかぴかに磨くのも遊びになります。自然と甘えが生まれ、「ここにいてもいい」と思える。「まだまだ大丈夫」と困難を一緒に乗り越える連帯感も生まれます。
一家心中を「友達と遊ぶから」と止めた子ども
富山大で講師をしたとき、ある男子学生が一家で心中しそうになった経験をリポートにしました。母親に「一緒に死のう」と言われたけれど、幼かった彼はとっさに「友達と遊ぶから死ねない」と叫んだそうです。「あしたも遊びたい」という思いがなければ、「自分も家族も死んでいたかも」と彼は振り返りました。
子どもにとって遊ぶことは、今を生きることを肯定し、「明日も生きたい」と希望を持つこと。子どもの存在そのものです。それ以外の何物でもない。子どもには遊びこそが必要で、そのために大人は奔走すべきです。
大人の苦悩も浄化する「遊び」を守ってほしい
遊びは大人にも重要です。私が開いてきた皿回しのワークショップで、最初はばかにしていた大人も、失敗を繰り返し回せるようになると、「ウォー」「オレにもできた」と声を上げて感動します。遊びがもたらす感情の変化が子ども時代を思い出させ、大人の苦悩を浄化するのです。
不安が増す緊急事態にこそ遊びが必要なのに、疎んじられ、奪われています。せめて家庭だけでも、知恵を絞って考え、遊びを守るとりでになってほしい。遊んでばかりいてください。
早川さんは今の状況に対する緊急提言を「富山・イタズラ村・子ども遊ばせ隊」のホームページで公開しています。
早川たかし
1951年、富山市生まれ。特別支援学校教諭として障害児教育に携わるかたわら、1983年に古民家を改修した遊び場「子どもイタズラ村」を同市の山里に開設。2004年に退職し、子どもの遊び環境を再生するNPO法人「富山・イタズラ村・子ども遊ばせ隊」を立ち上げた。NPOは2018年に閉じ、任意団体となったが、大道芸の皿回しを取り入れたユニークな講演活動を全国各地で続けている。著書に「子どもイタズラ村づくり」など。
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