コロナ禍の今こそ「子どもの権利」を守りたい 子どもが自分の気持ちと向き合える絵本「きかせて あなたのきもち」

長壁綾子、中村真暁 (2021年12月1日付 東京新聞朝刊)

絵本「きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?」

 感染症のまん延や災害などの非常時に置き去りにされがちな「子どもの権利」を考える絵本「きかせて あなたのきもち 子どもの権利ってしってる?」が、9月に出版された。子どもの気持ちに焦点をあて、子ども自らが自分の気持ちと向き合いながら、権利を知ることができる内容になっている。作者ら制作にかかわった人々に話を聞いた。

どんな状況でも大切にされる存在

 コロナ下で、学びや遊びの機会が制限されたり、食生活や健康が脅かされたりしている子たちがいる。絵本制作のきっかけは、国連・子どもの権利委員会による昨年4月の声明。新型コロナウイルスの世界的流行が及ぼす身体的、心理的な影響に触れながら、子どもの権利に配慮したコロナ対応をとるよう各国に求めたものだ。

 声明が指摘した内容に共感したのが、絵本の文を担当した仏教大の長瀬正子准教授(44)=社会福祉学。声明に触れ、全国一斉休校などで、子どもの権利が侵害されていることに気づいた。「コロナ下のような非常事態では、大人も自分のことで精いっぱい。より弱い立場の子どもは放っておかれ、したいことや気持ちを出すことを我慢せざるを得ない状況に置かれている」

 長瀬さんは昨秋、仲間とともに、「子どもの声を聴く」という姿勢を軸にした、ワークブック型の絵本「子どもの権利と新型コロナ」を自費出版した。絵本は書き込み式で、学び遊ぶこと、話を聴いてもらうことは権利であると伝え、子どもは自分のありのまま素直な気持ちを書くことができる。口コミなどで広まり、1年で2900部が売れた。ただ、声明が基になっているため、子どもの権利に初めて触れる人にはハードルが高い。加えて、書き込みの部分が多いワークブックのため、図書館に置きにくいという課題もあった。

 そんな長瀬さんの熱い思いを知った編集者の山縣彩さん(50)、ひだまり舎(東京都八王子市)の中村真純さん(50)らが加わり、「子どもはどんな状況でも大切にされる存在」という共通の認識の下で、全面改訂し、ハードカバーでの絵本化を実現した。

「あなたの気持ち」を書き出して

 絵本では、「何をしているときが最高の気分?」「どんなことを学んでいるとわくわくする?」などと質問。「遊びたくなったら思い切り遊ぶ時間を持てる」「どんなときも、知りたいことを学べる」といった子ども本来の権利を考えることができる。 

 人権に絡めて子どもの権利を説明するページには特に力を入れた。「あなたの気持ちが大切」「我慢しなくていいことがある」などの言葉で、子どもたちが自分の気持ちに気づき、表現できるように促す。

 別冊として添えたワークブックは、「苦しい」「しんどい」といったマイナスの感情も書き出す仕掛けとなっている。

 長瀬さんは「我慢することで、人間らしく生きる権利が奪われている」と指摘する。絵本が尋ねる「あなたの気持ち」をワークブックに書き出すことで、子どもが自分の状態を知り、権利が守られているかどうかを確認するとともに、周りの人たちにとっても子どもたちの思いを知る手がかりにもなる。

 より深く理解したい人向けに、日本が1994年に批准した「子どもの権利条約」の詳細な説明文も盛り込んだ。「大人が子どもの権利を理解することも大事。大人にも読んでほしい」と山縣さん。長瀬さんは「子どもの権利条約自体、まだ十分には知られていない。本来、当たり前にあるはずの子どもの権利を、この絵本で知ってほしい」と話している。絵本は1980円。

中野区のカフェで絵本の原画展 12月5日まで

子どもの権利を考える絵本を手に持つmomoさん(左)とトミヤマチハルさん=中野区で

 子どもの権利を考える絵本「きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?」(ひだまり舎)の原画展が、東京都中野区のシェアカフェ&ギャラリー「ウナ・カメラ・リーベラ」(中野2)で開かれている。温かいタッチのイラストが、コロナ禍で遊びや学びを制限された子どもたちの心に寄り添う。

12月3日にはトークイベント

 12月3日午後6時半からは原画を描いたmomoさん(45)=八王子市=と、文を書いた仏教大准教授長瀬正子さんのトークイベントがある。昨春、国連の子どもの権利委員会はコロナに関する声明を出した。子どもの最善の利益を追求することや、教育の格差を拡大しないことなどが盛り込まれ、絵本ではそうした内容を、かわいらしいイラストや優しい日本語で伝えている。

 原画展は11月20日の「世界子どもの日」に合わせて開催。展示された14点は、草花を見たり楽器を奏でたりする子どもたちの様子などが描かれている。

 momoさんは「子どもたちはコロナ禍で我慢する生活を送りましたが、本来は楽しく過ごせることを示そうと描きました」。原画展を主催したのは、ウナ・カメラ・リーベラなどで菓子を作り、販売する「月と田んぼ」のトミヤマチハルさん(50)=板橋区。トミヤマさんは「来場者の心に子どもの権利を残せるよう、橋渡しができれば」と話す。

 原画展は12月5日まで。トークイベントの参加費は1000円とドリンクか食事を1品注文する。問い合わせは月と田んぼのメール=tukitotanbo@gmail.com=で受け付けている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年12月1日