感覚過敏の人に優しい「クワイエットアワー」音や光を控えめに 動物園、劇場、スポーツ観戦…全国で広がる
国内初は豊橋総合動植物公園 休園日に
7月半ば、愛知県豊橋市の豊橋総合動植物公園。この日は休園日で、平日でも1000人以上でにぎわう園内に、人影はない。しかし動物の日課は変わらない。水浴びするゾウを眺めながら、重度の自閉スペクトラム症と知的障害のある豊橋市の花島愛弥(あや)さん(21)は絵を描く。「ゾウさん」。声を上げ、ニコニコする愛弥さんを見つめ、母の恵里さん(50)もほほ笑む。
豊橋総合動植物公園は2020年から休園日に月3回、障害などで通常の入園が難しい人が来場できる国内初の制度を設けている。
愛弥さんは、特に乳幼児の泣き声が苦手。耳当てをしていても、聞こえるとパニック状態になって大泣きし、1時間ほど身動きが取れなくなる。
以前小学校に通えなかった時、週に何回も同園に通って元気を取り戻した大の動物好き。しかしコロナ禍で、どの時間帯にも幼児が増え、通えなくなった。そのことが同園に伝わり、愛弥さんの父、紀秀さん(51)が理事を務める日本自閉症協会なども、混雑日に入園が難しい人への対応を求める要望書を提出。休園日に入れる制度が始まった。
大きな音でパニック 外出できない悩み
愛弥さんの主治医で要望に協力した市こども発達センター長の中野弘克さん(51)によると、感覚過敏は自閉スペクトラム症の主な症状の1つ。味覚、触覚、視覚などが過敏な人もいる。中でも聴覚過敏は多く、トイレの排水音やせきなど、突然の大きな音が苦手なことが多い。耐えがたい不快感、恐怖心でパニック状態になり、泣いたり怒ったり走り出したりするので、外出を控える人もいる。
静かな休園日なら「本人だけでなく、家族も安心して楽しめる」。2022年3月までに当事者のべ80人が利用。周囲の客に次々声をかけてしまうこともあり、通常時の来園をためらっていたグループホームの認知症の人たちも訪れた。
感覚過敏に詳しい高知大医学部特任教授の高橋秀俊さん(53)によると、過敏な人のために音量や照明などを配慮する「センサリーフレンドリー」は10年ごろ、欧米の博物館や映画館で始まった。2017年ごろからは、英国などのスーパーで、こうした工夫がある時間帯「クワイエットアワー」が広がった。
サッカーJ1川崎で「センサリールーム」
国内での取り組みも増えている。名古屋市昭和文化小劇場は2019年から年1回、映画上映会を企画。今年5月に高知県、6月には埼玉県の水族館も取り組んだ。いずれも発達障害の人々らが訪れた。
スポーツ観戦では2019年夏、川崎市等々力陸上競技場であったサッカーJ1の川崎フロンターレ-大分トリニータ戦で、照明を控えるなどした「センサリールーム」が初めて設けられた。ドラッグストアチェーンの「ツルハドラッグ」では、北海道と宮城県の一部店舗で土曜朝に1時間、BGMを流さず照明が薄暗いクワイエットアワーを続けている。
「音量を下げるなど、技術的には難しくないが、実施には周囲の理解が重要」と高橋さん。施設内で音が鳴る場所、まぶしい場所が分かる地図を作る、館内の様子をネット上で紹介する-など、「普段からできる配慮もある」と話した。
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