川崎市中原区「じぃーじぃーず」 毎日開店 子どもも大人も「安価で温かいご飯をゆっくりと」

竹谷直子 (2023年1月4日付 東京新聞朝刊)

食事を受け取る子どもたちと宮田さん(左)=いずれも川崎市中原区で

 子どもも大人も安価でおいしい食事ができる地域の居場所をつくろうと、約40年間料理人として経験を積んだ男性が毎日、「むかいがわら こども食堂 じぃーじぃーず」(川崎市中原区)を開いている。

料理人の宮田さんが退職金で開店

 「こんにちは!」。昨年12月半ばの日曜昼、常連客の幼い姉妹が笑顔でドアを開いた。親子や会社員など、客層はさまざま。落書きできる壁やカードがあり、子どもたちはご飯を食べた後も「じぃーじぃーず」での時間を楽しむ。

 大手飲食チェーンを定年退職した宮田明さん(61)が2021年11月に立ち上げ、1人で切り盛りする。姉の坂本莉実ちゃん(9つ)は「家族と来たり、友達とも来る。(宮田さんは)おもしろいしやさしい」。妹の英莉ちゃん(6つ)も「おいしい」とはにかんだ。「また明日ご飯食べにおいで!」。店を後にする子どもたちに、宮田さんのはつらつとした声が飛ぶ。

 宮田さんは以前から独りで食事をする「孤食」をする子がいると聞いていた。「子どもが1人で来ても心配がいらず、できたての温かいご飯を安心してゆっくり食べられる場をつくろう」と退職金を費やして店を開いた。

子どもが無料で食べられるように寄付された食事券「みーるちけっと」と客や子どもたちのコメント

夜はお酒も提供 母親の語り合いの場に

 朝7時から夜8時まで毎日営業し、休業は年に1度だけだ。朝食は中学生までの子どもは無料で、大人は300円。昼と夜は、子どもが300円で大人は600円。宮田さんが考えたメニューを提供し、酒の提供もする。子どもの遊ぶスペースがあるため、母親たちでお酒を飲んで語り合える場にもなっているという。

 2歳とゼロ歳の子どもと訪れた会社員の角谷亮介さん(35)=中原区=は開店当時から通う。「子どもと遊びながら過ごしやすい。店長さんの人柄も良くて居心地がいい」と笑顔。妻の禎子(よしこ)さん(35)も「親戚のおうちに遊びに来ている感覚」と話す。

子ども料金は赤字 仕入れ値交渉で継続 

 ただ運営は無休で働く宮田さんの善意で成り立っているのが現状だ。コロナ禍の開業で飛沫(ひまつ)防止の仕切り板などの初期費用もかかったが、費用の回収や利益を出すことは考えていない。

 それでも物価高によって仕入れ値は開業時から2割増え、光熱費も1・5倍になっている。「子ども料金では赤字。冬の光熱費もかなり高くなりそうだ」と明かす。お店を長く続けるため、自分の洋服は新調せず、仕入れ値を交渉するなどしてやりくりしている。

 地域の子ども食堂の仲間とつながって食品を共有する。活動を知った人から寄付や物資も届けられるようになった。「子どもたちの笑顔が自分のお給料。『うまい!』と言ってくれるのが一番うれしい」とにこやかに話した。

<子ども食堂の現状> 無料や安価で子どもに食事を提供する「子ども食堂」は2012年に東京都大田区で始まったとされる。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の22年12月の発表によると、全国には7331の子ども食堂があり、増加傾向。県内には396カ所ある。同法人の10~11月の子ども食堂へのアンケートでは物価上昇による影響を82.7%が感じているが、開催頻度や料金などの変更は6.9%にとどまっている。湯浅誠理事長は「物価高の影響を利用者に転嫁せず、やりくりをすることで子ども食堂自身がクッションになって受け止めている。物価高に対応した行政の助成金が必要」と説明する。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年1月4日