子ども食堂がある街 北千住×居酒屋 横浜×マルシェ 誰もこぼれない優しさを

神谷慶 (2022年12月31日付 東京新聞朝刊)
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夕食を取る中村風花さん(手前右)と樹ちゃんを見つめる「かどの子ども食堂」の渡辺浩司代表(奥)=東京都足立区で(坂本亜由理撮影)

 子どもに無料もしくは低額で食事を提供する「子ども食堂」。食材価格の上昇など運営環境が厳しさを増す中、その数は増え続け、地域住民のつながりを深める場としても必要性が高まっている。運営側は「居場所」を安定して提供し続けようと、さまざまな工夫をしながら開催につなげている。

居酒屋の客が「気持ちの葉っぱ」を購入

 「ポテトが、甘いお芋の味」「チキンソテー、とってもおいしかった」

 東京都足立区の北千住駅近くにある居酒屋「かどのいざか屋」。今月上旬の夕刻、両親と来店した中村風花(ふうか)さん(8つ)と樹(いつき)ちゃん(6つ)のきょうだいが、この日のお勧めメニューをほおばっていた。夜には大人の客でにぎわうこの店は、同時に「かどのこども食堂」として家族連れや子どもだけでの来店も歓迎している。

 子どもは1食分無料。食材や運営費は、居酒屋のお通し代500円と、チケット「気持ちの葉っぱ」(1枚350円)の売り上げで賄う。葉っぱの形をしたチケットを居酒屋の客らが購入し、既に150枚ほどたまった。子どもは入り口近くの束から一枚取って、店の人に渡す仕組みだ。

 こうして子どもが食事した分の「葉っぱ」は、店内の壁に飾った「地域の樹」に貼っていく。葉っぱが増えていくことで、大人は子どもに役立っていることを、子どもは地域に支えられていることを実感できる。

地域に支えられた子育て 恩返ししたい

 10月に店と食堂をオープンさせた代表の渡辺浩司さん(45)は「葉っぱは、地域の大人たちからの心のバトンです」と力を込める。

 足立区出身の渡辺さんは15年前に離婚、当時1歳8カ月だった息子を育ててきた。都心の飲食店長などの仕事と育児の両立は難しく、在宅でできるホームページ制作の仕事を一から学び、経済的に厳しい時期もあった。だが、地元の人たちは買い物中に息子に優しい言葉を掛けてくれたり、ミニカーをくれたりして支えてくれた。「いただいたものを地域に返したい」との思いが強いという。

 「大人も子どもも両方が自然体で来られる場所をつくりたかった」という渡辺さん。目標は、町全体に子どもが気軽に来られる居場所を増やすことだ。「どんな業種のお店でも、机一つ置けば子ども食堂はできる。そうすれば、誰もこぼれない、子どもに優しい町ができるんじゃないかな」

農大生が地場野菜を販売、収益で食堂を

 「横浜で採れた新鮮な野菜はいかがでしょうかー」。12月中旬の週末、そごう横浜店(横浜市西区)前のテラスに、東京農業大の学生たちの声が響く。

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子ども食堂の開催につなげるマルシェで、新鮮な地場野菜をPRする大学生たち=横浜市西区

 4月から原則毎月第4土日曜に開かれる「大学マルシェ」。「学生組織with(ウィズ)」のメンバーが地場野菜をPRしつつ、収益で子ども食堂を開こうと取り組んでいる。東農大3年の前田帆乃夏さん(21)は「子どもの食や栄養の問題に、『農大生だからこそできることがある』と考えた」と振り返る。

 初の子ども食堂は8月、横浜市西区の民家で開いた。市内から家族6組が来場し、地場野菜を使ったトマト煮やカボチャプリンなどを作って子どもには100円で振る舞い、好評だった。来春、2回目を開催予定だ。

 マルシェ前日、学生たちは仕入れ先を訪問。横浜市泉区の生産者の横山勝太さん(32)方では、「カリフラワーの味や食感は、色ごとに違いがありますか」などと熱心に質問した。お勧めの調理法も聴き取り、マルシェでの説明に生かす。

 東農大3年の横地花菜さん(20)は「生産者と直接話して思いを共有し、そこに価値を見出しながら、食べ方も含め提案できる経験は貴重」と話す。マルシェで買い物した横浜市港北区の石川倫世さん(30)は「子ども食堂につなげるなんて、すてきな取り組み。また来たい」と笑顔を見せた。

子ども食堂の現状 「貧困対策」から「地域の全ての人のための場」へ

 認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」(東京)の湯浅誠理事長(53)に、国内の子ども食堂の現状と展望を聞いた。
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「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の湯浅誠理事長

 2022年秋時点で全国に少なくとも7331カ所(速報値)ある。コロナ禍が続く中でも1年前から1300カ所余り増えた。人と人とのつながりが薄れ、社会的孤立がまん延している中、居場所に対する注目が高まっている。「人口減や少子高齢化で寂しくなる地域に必要な交流拠点」との認識が広まり、地方で特に増えている。

 開催団体などに聞いたアンケートでは、「物価上昇の影響を感じている」との回答が半年前の70%から82.7%に増えた。そんな中でも品数、頻度を減らさず、利用者に転嫁せずに頑張っている方々が多くいる。

 今では大半の所が経済状況などの参加条件を付けておらず、「貧困対策」から「地域の全ての人を対象にした場」に認識は変わりつつある。今後も増え続けて「インフラ化」し、地域コミュニティーの基礎となる役割を担っていくだろう。

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