子ども食堂で法律相談 離婚調停や貧困に悩むひとり親家庭が「食材をもらうついでに」 法テラスが福祉と司法の橋渡し

五十住和樹 (2023年12月17日付 東京新聞朝刊)
 子ども食堂に弁護士が参加してひとり親家庭などの法律相談に応じる取り組みが、東京などで始まった。国が設立した法テラス(日本司法支援センター)が今年から、相談場所として指定するなど支援している。法律の専門家が福祉の現場に自ら出向くことで、途切れがちな福祉と司法を連携させようとする試みだ。

子ども食堂で法律相談の案内をするスタッフ=東京都港区で(NPO法人みなと子ども食堂提供)

離婚調停中の女性「とても心強い」

 11月中旬、東京都港区の増上寺。NPO法人みなと子ども食堂(東京)が行う食材や日用品などの無料配布会(フードパントリー)で、法律相談も受け付けていた。応援も含め8人の弁護士が対応した。

 「食材をいただくついでに相談できるのはありがたい」と、2人の子を育てる30代のシングルマザー。アパートの建て替えで退去を求められているが、仕事や育児に追われる毎日で相談する時間がなかったという。離婚調停中の40代の女性は「ささいなことでも聞いてもらえて安心できた。とても心強い」。この日は訪れた約200人のうち、8人が小部屋に案内され、相談をした。

子ども食堂での食材配布で野菜を受け取る人たち=11月、東京都港区で(五十住和樹撮影)

養育費、借金、子どものいじめも

 同法人では、メンバーの栄養士らが調理を担当、2016年から区内で子ども食堂を開いてきた。2019年にママ友の縁で地元の弁護士福崎聖子さん(55)が理事長に就任。コロナ禍でフードパントリーに軸足を移す中、2021年と2022年に各1回、知人の弁護士に頼んで法律相談を開いた。

 法テラスの指定を受けた今年9月には、4人の弁護士が対応。「離婚した後に養育費はもらえるか」「勤務先から突然、退職を迫られた」「借金がかさんでしまった」「子どもがいじめなどのトラブルに遭った」など、主にシングルマザーからの相談を受けた。

 相談は無料で、離婚調停など法的な措置が必要なケースは、弁護士の申請により、一定の要件で法テラスが費用を一時的に立て替える。生活保護など困窮世帯は、さらに費用が免除されることもある。福崎さんは「相談内容によって福祉の専門職につなぐこともある。大切なのは相談者を孤立させないこと」と話す。

配布は月1回 相談は2カ月に1回

 コロナ禍と物価高で子ども食堂の利用者は急増。「精神的に苦しんでいる人が多く、区や法テラスに相談する余裕も時間もない。子ども食堂に来たついでに気軽に相談できるのは重要」と福崎さん。食材などの配布は月1回で、法律相談は今後2カ月に1回は実施する予定という。

 貧困問題など法律だけで対処できない課題は多く、法テラスは司法と福祉の連携を活動の重要な柱に据える。相談場所に指定した子ども食堂は、今は他に鳥取県倉吉市にあるだけだが、法テラスは今後、他の地域でも相談しやすい環境を増やす考えだ。法テラス本部で法律扶助を担当する生田康介さん(54)は「利用者の生活再建が重要。福祉と司法の橋渡しをしたい」と話している。

複合的課題に多職種の連携が重要

<上智大総合人間科学部の鏑木奈津子准教授(社会福祉学)の話> 気軽に使える子ども食堂で弁護士が相談に乗るのは非常に有益。生活困窮の人は借金や雇用、子どものひきこもりなど複合的に課題を抱えていることが多く、弁護士や福祉専門職、保健師、教育関係者など多職種が連携して対応することが重要だ。

法テラスとは

 全国どこにいても国民が気軽に法的なトラブルを相談できる窓口を作ろうと、2006年に国が設立。各地に事務所があり、民事、刑事を問わず解決に必要な情報を提供し、無料法律相談、弁護士費用の立て替え、犯罪被害者支援、国選弁護人への報酬支払いなどの業務をしている。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年12月17日