子どものあと〈3〉取り戻せない日々を塗りかえてくれた、息子の食べ歩きノート
今回、話を聞いたのは…
ユキエさん
40歳、会社員、東京都杉並区在住。子どもは、小学3年生の長男。
国旗や地図好き 文化にも興味
子どもと、世界の料理を食べ歩きしています。写真のノートは、息子がその記録をまとめたもので、今は2冊目に入っています。
小さい頃から国旗や地図が好きだった息子は、その延長で世界の文化に興味を持つようになりました。ちょうどコロナ禍でどこにも旅行に行けなかった頃、「地球の歩き方」から出ている「世界のグルメ図鑑」を買ってあげると、ボロボロになるまで読み込んでいました。息子が「食べに行きたい!」と言いだし、食べ歩きがスタートしました。
始めた2021年の夏は、まだ電車で遠出するのも迷うような感染状況でした。この本で紹介されているお店の中から自転車で行ける場所を探して、家族3人で食べに行くようになりました。初めに行ったのは、世界の朝食が食べられるレストラン。スイス、ノルウェー、台湾で食べられている朝食がテーマのプレートをそれぞれ注文し、シェアして食べました。
「食べに行って終わりじゃもったいないから、ノートにまとめてみない?」と私が声をかけたのがきっかけで、息子が国名と料理の名前、写真や感想を毎回記録として残すようになりました。初めは面倒そうにしていたのですが、ページが増えると楽しくなったみたいで。まだ保育園の年長さんの頃に書いた最初のページは、字が下から上に向かって書かれていたりします。
どんな味でも絶対にけなさない
これまでに60カ国ほどの料理を巡りました。先入観なく、好奇心で何でも食べてしまう息子はすごい。私は羊が苦手で食べられないのですが、息子は羊が多く使われているパレスチナ、ウズベキスタン、キルギスなどイスラム系の国の料理も臆さず食べます。
ノートに書く感想も、「野菜なのに満足感がある」といった感じで、堂に入ってきました。巡っていると、中には「この料理はちょっと…」と思うような味にも出合うのですが、息子は絶対にけなさない。おいしいかどうかよりも、一番に来るのは「その料理を知ることができて良かった!」という気持ちみたいです。
私はなじみのあるところにしか行かないような面があるので、息子がいるおかげで世界が広がっていると感じます。
コロナ禍になって、募った後悔
実は、この食べ歩きの背景には私の後悔があります。息子が2~4歳の頃、帰省以外の遠出をあまりしなかったことです。夫が海外に単身赴任していて、まだまだ手がかかる息子と2人だけで暮らしていた時期だからということもあったかもしれません。
日帰りでは極力、都内の美術館やイベントなどに出かけていました。でも、その延長で泊まりで2人で出かけようかなと思っても、「移動時間がしんどいだろうな」と考えてしまったり、平日は仕事なので週末はゆっくりしたかったり。出かけるのをやめる理由はいっぱいあった。大変な方ばかりに目が行ってしまって、「今じゃなくていいか」を続けていたら、コロナが来て本当にどこにも行けなくなってしまった。
「いつでも出かけられる」が当たり前ではなくなって痛感しました。多少無理をしても行っておけばよかった。あの頃の小さい息子と何かを体験することはもうできない。
だから今、息子との世界の食巡りで取り戻しています。
「育てている」感覚ではなくて
話し好きの息子は、いろいろな国について本などから仕入れた知識をよく披露してくれます。知らないことばかりで面白くて、「子どもに教わることがあるんだなあ」と感動しています。彼のおかげで学生時代に学んでいたフランス語への興味がよみがえり、今、アプリで再び学び始めました。フランスにまた行きたい。息子と行きたいです。
若い頃は、「親として子どもを育てる」という責任を考えたら「子どもはいらない」と思っていました。でも産んでみたら、意外にも「育てている」感じはなかった。私にとって大きな発見でした。親が子どもを教えたり導いたりするのではなくて、一緒に生きている感覚です。
〈1〉よく泣く子だった長男 あの頃、チーズが私のお守りだった
〈2〉長いお風呂に寝かしつけ 5歳の娘にとことん付き合う僕の願いは
〈3〉取り戻せない日々を塗りかえてくれた、息子の食べ歩きノート(このページ)