頼れる大人のいない「ケアリーバー」たちに伴走支援を 社会的養護の経験や年齢を問わない国の制度が始まりました

五十住和樹 (2024年5月22日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
 児童養護施設や里親家庭を出て、原則18歳で独り立ちを求められる社会的養護経験者(ケアリーバー)らを支援する国の制度が、4月に始まった。頼れる大人がおらず生活困窮などに陥る実態が問題になっていた。新制度は年齢制限がなく、社会的養護の未経験者も対象。支援の現場は「一人でも多くの生きづらさを抱えた人に伝われば」と制度拡大に期待する。

ジャム作りをする若者たち。「安心していられる場所」での活動中には笑みもこぼれる=東京都国分寺市で(ゆずりは提供)

ケアリーバーとは

児童養護施設や里親などの社会的養護のケアから離れた子ども・若者のこと。「ケア(care)」と「離れた人(leaver)」を合わせた造語。厚労省が2021年に公表した実態調査では、3人に1人が生活費や学費の悩みを抱えていた。

生活支援を自治体の努力義務に 

 若者たちに居場所を提供する「ゆずりは」(東京都国分寺市)。自由に過ごせるサロンや、ジャム作りをする工房がある。虐待や育児放棄、暴力など家庭で深く傷ついた心と体を癒やし、人付き合いが苦手な人の働く場になっている。帰住先のない人への短期間の居住支援も行っている。

 児童福祉法の改正による新制度「社会的養護自立支援拠点事業」は、こうした居場所の提供などに取り組む団体に国や都道府県、政令市などが金銭的に補助する。自治体には事業を行う努力義務を課している。

 2011年に開設したゆずりはには、「どこにも行くところがない」「借金がある」「家族やパートナーから暴力を受けている」など深刻な事情を抱えた若者から連絡が入る。

 里親家庭を高校卒業と同時に離れ、上京して大学に進学した男性(24)は心身の不調で休学し、奨学金の支給が停止された。あまり関係が良くない里親や、虐待を受けた実親に頼れず困窮し、家賃を滞納して電気やガスを止められる事態に。インターネットで見つけたゆずりはに連絡し、生活保護の申請に同行してもらい、債務整理などの支援を受けた。

困窮のない家庭にも虐待はある 

 新制度は、ケアリーバーでない人も対象としたのが特長だ。

 大学3年の女性(25)は親に支配され、精神的に追い詰められる虐待を受けてきた。しつけと称して常に監視され、入浴や食事の時間も一方的に決められた。「おまえなんか死ね」「教育費を返せ」などの暴言も浴びせられた。

 学校や児童相談所などに相談したが、親は地元の名士で、「あなたを思って厳しくしている」と相手にされなかった。このままだと死ぬしかないと、身一つで上京。ゆずりはが当面のホテル代などを援助し、アパートの部屋を確保した。生活保護申請にも同行した。

 所長の高橋亜美さん(51)は「自立しなければという思いが、誰かに相談したり頼ったりしようという気持ちの足かせになっている」と指摘。この女性のように生活困窮でもなく、きちんとしているように見える家庭での虐待は見えにくいという。「逃げればいいと言われるが、相当な勇気がいる。そうした状況に寄り添ってこそ初めて支援につながる」と拠点事業のメリットを話す。

施設在籍中からの継続支援が鍵 

 ケアリーバーなどを支援する事業者は全国に50程度あるとされる。だが、自治体の予算措置などが整わず、まだ新制度を使えていない地域もある。

 児童福祉施設などの若者を在籍中から退所後まで一貫して支援する認定NPO法人ブリッジフォースマイル(東京)の林恵子理事長(50)は、「ケアリーバーへの支援が自治体の努力義務になったのは良かった」と制度化の意義を強調。一方で「施設在籍中からの伴走的な支援が重要だが、事業に入らなかったのは残念だ。自治体がどこまで取り組むかで差が出る」と課題を指摘している。