【選択的夫婦別姓がわかるQ&A⑥】国連の女性差別撤廃委員会が法改正の勧告?
【疑問10】日本が国連の女性差別撤廃委員会から法改正の勧告を受けているというのは本当ですか。
<答え> 日本は、国連の女性差別撤廃委員会から、夫婦別姓が選べる制度への法改正を早急に行うよう、何度も勧告を受け続けています。最近では、2024年10月に4度目の勧告を受け、2年以内に取り組んだ措置を文書で報告するよう求められました。
日本が女性差別撤廃条約を批准したのは1985年です。条約は、国と国の間で文書の形式により締結された国際的な合意です。女性差別撤廃条約は「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」や「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」を確保することを締約国に義務付けており、条約を締結した締約国は、条約を誠実に履行する締約国間の義務を負います。
それにもかかわらず、日本が夫婦別姓を選べるよう法改正しないため、女性差別撤廃委員会は、女性差別撤廃条約の実施の進捗状況を審査するための日本の報告書審査で、日本に対し、2003年、2009年、2016、2024年と4度も「差別的な規定」である民法の改正を勧告してきています。このような度重なる勧告にもかかわらず法改正をしていないというのが、現在の日本の状況です。
選択的夫婦別姓制度の導入を求めて活動している一般社団法人「あすには」代表理事の井田奈穂さんは「委員会からは『日本は法改正のために何一つやってこなかった』との指摘もあり、最大限厳しい表現で、政府の無作為を明確に指摘した。政府にすみやかに対応してもらいたい」と今年10月の会見で訴えました。
なお、日本は1979年に自由権規約にも批准しており、同条約は「私生活及び家族に対する恣意(しい)的な干渉の禁止」「婚姻に係(かかわ)る配偶者の権利の平等の確保」を締約国に義務付けています。自由権規約委員会は、これまで2度にわたり、婚姻前の姓の保持の平等を実現すべきとする一般的意見を採択し、さらに2022年には個別に日本政府に対し民法750条の法改正を勧告しています。
女性差別撤廃条約
女性に対するあらゆる差別の撤廃を基本理念に1979年の国連総会で採択され、締約国は現在189カ国に上る。各国政府は、条約の履行状況を定期的に国連に報告することが義務付けられている。
◆次の疑問は、近日公開予定。
【子育て世代の疑問に答えます】
9月の自民党総裁選で争点の一つになった「選択的夫婦別姓」。夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度です。夫婦同姓を法律で義務づけているのは世界でも日本だけで、晩婚化やグローバル化、IT化など時代の変化に伴い、さまざまな不都合が生じています。そして、その不都合を感じているのは、ほとんどが女性。男性の議員や経営者、裁判官らに訴えても理解を得にくい問題でもあります。
最近よく耳にするようになったけれど、詳しい内容が分からず、「今までと違うのは、なんとなく不安」という人もいるでしょう。衆院選を前に、子育て世代にも身近な疑問を、別姓訴訟弁護団にかかわる弁護士、榊原富士子さんと寺原真希子さんの著書「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ」(恒春閣)を基に解き明かします。
⑥国連の女性差別撤廃委員会が法改正の勧告?(このページ)
選択的夫婦別姓とは
夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度。1996年、法相の諮問機関「法制審議会」が導入を盛り込んだ民法改正法案要綱を答申したが、自民党保守派から「家族の絆が壊れる」といった反対意見が強く、国会に上程されないまま30年近くの年月が流れた。以前は別姓を認めていなかった国も男女平等などの観点から制度を是正する中、日本は別姓を選べない唯一の国として取り残されている。2023年に婚姻した夫婦のうち94.5%が夫の姓を選択した。
別姓を認めない日本に対し、国連女性差別撤廃委員会は再三の改善勧告をしている。日本は、旧姓を通称使用する独自の政策を推進しているが、グローバル経済の中、二つの名前を使い分けるローカルルールとして混乱のもとにもなっている。多様性や公平性なども含めて課題に対応する「DEI」の観点から、経団連は24年6月、選択的夫婦別姓の早期実現を政府に求める提言を発表した。
著者の紹介
◇寺原真希子(左) 東京大法学部卒業後、司法試験に合格。長島・大野・常松法律事務所など東京都内の事務所で勤務後、米ニューヨーク大ロースクールに留学しニューヨーク州弁護士資格を取得。帰国後、旧メリルリンチ日本証券での企業内弁護士を経て現在、東京表参道法律会計事務所の共同代表。2011年に選択的夫婦別姓訴訟弁護団に加わり、22年から弁護団長。
◇榊原富士子(右) 京都大法学部卒業後、1981年から弁護士。婚外子相続分差別訴訟、子どもの住民票や戸籍の続柄差別違憲訴訟などを担当。離婚と子どもに関するケースを多く扱う。2009~14年、早稲田大大学院法務研究科教授。2011~22年、選択的夫婦別姓訴訟弁護団長を務めた。