ヤツらが妻を占領してしまうので、僕は祈る〈お父ちゃんやってます!加瀬健太郎〉

(2021年10月1日付 東京新聞朝刊)

 夜。

 寝る前にベッドに倒れ込んだ妻が、「私もう死ぬ」と言った。子育てと家事に疲れて言った。

 次の日の朝。三男が寝ている妻の元にいき、「ママ、まだ生きてるじゃん」とうれしそうに笑った。

 妻は、いつも子どもたちに必要とされている。僕の比ではない。妻がいないと生きていけない生き物が4匹。

 「ママ、ママ」「次こっちこっち」「いまぼく話してんだから」「全然聞いてくれないじゃん」と、ママを取り合い、わめく、すねる、泣く、叫ぶ。

 僕はこの東京新聞の連載も、書くと最初に妻に読んでもらっている。しかし、ヤツらが妻を占領しているので、読んでもらうだけでも一苦労。

 一瞬の隙をついて原稿を渡すけど、妻は妻で「今(読むの)?」と聞いてくる。あとにすると、またいつチャンスがくるか分からないので、「今」と答える。妻は「私の時間ないんやけど」とインスタを見ていたスマホを置き、面倒くさそうに原稿を手に取る。

 僕は祈る。どうか妻が原稿を読み終え、感想を言ってくれるまで、赤ちゃん泣きださないでください。誰もけんかしないでください。「ママ、おしりふいて」とトイレから三男叫ばないでください(僕が行くと嫌がられる)。

 原稿を読み終えた妻は大抵、「うん、面白かったよ」という。「どこが?」と聞くと、「全部」と答える。「どんなふうに?」と粘ると、ため息交じりに、「最後の方がなんとなく」とテキトーに答える。

 僕はその答えに満足したわけではないけど、具体的にアドバイスされればされたで腹立つだろうから、これでいいことにする。

加瀬健太郎(かせ・けんたろう)

 写真家。1974年、大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、ロンドンの専門学校で写真を学ぶ。現在は東京を拠点にフリーランスで活動。最新刊は「お父さん、まだだいじょうぶ?日記」(リトルモア)。このほか著書に「スンギ少年のダイエット日記」「お父さん、だいじょうぶ?日記」(同)「ぐうたらとけちとぷー」(偕成社)など。11歳、8歳、4歳、1歳の4兄弟の父。これまでの仕事や作品は公式サイトで紹介している。

コメント

  • とても楽しく読ませていただきました。 うちには男の子と女の子が1人ずついるのですが、お兄ちゃんはパパ大好きで、お尻を拭く役目もパパが担っています。私は、ラッキーと思う時と、私もパパみたいに必要とされ
     
  • いつも楽しく読んでいます。 お父ちゃんやってます!というタイトルなので、奥様の話よりはお父様がどのような育児や家事(ともに具体的に)されているのか興味があります。 ママは人気者や妻は子どもたちに必