心愛さん虐待死、父親に異例の懲役16年判決 自ら撮影した衝撃的な写真・動画が重要証拠に

太田理英子、山口登史 (2020年3月20日付 東京新聞朝刊)
 千葉県野田市の小学4年栗原心愛(みあ)さん=当時(10)=を虐待死させたとして、傷害致死罪などに問われた父親勇一郎被告(42)の裁判員裁判で、千葉地裁(前田巌裁判長)は19日、6件の起訴内容全てを有罪と認定した上で、「先例を大きく超える極めて悪質性の高い事案」とこれまでの虐待事件の傾向を上回る懲役16年(求刑懲役18年)の判決を言い渡した。 

死者1人の虐待では傷害致死罪で最も重い量刑 

 前田裁判長は量刑理由で「徹底的な支配により、心愛さんを肉体的にも精神的にも追い詰め、死亡させた」と断じ、過去の死者1人の虐待事件で傷害致死罪としては最も重い量刑を言い渡した。

 公判で被告は傷害致死罪の成立は認めたが、暴行内容の大半を否定。「お父さんからぼう力を受けています」と被告の暴行を訴えた心愛さんのアンケート内容を「うそ」と主張した。これに対し、前田裁判長は「大人に対し、身に起こったことをありのまま精いっぱい伝えようとした様子がうかがえる」とアンケートの記載は信用できるとした。

野田市が公表した、心愛さんが書いたいじめに関するアンケート。余白には担任の書き込みがあった

 暴行の詳細を語った心愛さんの母親(33)の証言と被告の主張の信用性も焦点となったが、前田裁判長は母親の証言を「具体的、克明で信用性が高い」と認定。一方で証人らの証言が虚偽だと訴えた被告を「自己の責任を心愛さんや母親に転嫁して不合理な弁解に終始し、反省が見られない」と批判した。

被告の主張は「都合の良い部分をつまみ食い」

 被告が傷害致死罪について「冷水シャワーは額に2~3回かけただけ」などと激しい暴行を否定していた点も、「被告の主張は脈絡を欠いて不自然。都合の良い部分のみをつまみ食い的に述べている」と指摘。「実父から理不尽極まりない虐待を受け続けた心愛さんの悲しみや無念さは察するに余りある」とした。

 判決によると、被告は2019年1月22~24日、心愛さんに食事や十分な睡眠を与えず、顔に冷水シャワーを浴びせ続けるなどして死亡させた。

〈解説〉背景の解明は不十分 親が暴力を克服するため、社会全体で取り組みを 

 判決は、検察側の主張を全面的に認めた上で、同種の事件の中でも最も重い部類に位置づけ、求刑に近い懲役16年とした。犯行態様の陰湿さ凄惨(せいさん)さだけでなく、不合理な弁解に終始した勇一郎被告に「酌量の余地などみじんもなく、極めて強い非難が妥当」と厳しい姿勢を示した。

 公判では、暴行の様子を巡り、被告の説明と証人の証言内容が食い違った。密室での虐待行為を立証する重要な証拠となったのは、被告が撮影した多数の動画と写真。法廷で再生された中身は衝撃的だった。「家族に入れろよ」と叫び、土下座する心愛さんを「ムーリー(無理)」とあしらう被告。弁護側が主張した「しつけ」を超え、虐待であることは明白で、そこに父親らしい顔は見られなかった。

 心愛さんは、アンケートで被告の暴力を訴え、大人に救いを求めたが自宅に戻された。被告の強硬な態度に行政が屈し、家庭内で起こる虐待への対応の難しさを感じさせる事件だった。

 公判では、被告が暴力を繰り返した背景が十分に解明されたとは言いがたい。同じような悲劇を繰り返さないためには、罰するだけでなく、虐待を繰り返す親が自らに向き合い、暴力を克服できるような仕組みを社会全体で考える必要がある。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年3月20日