〈古泉智浩の里親映画の世界〉vol.29『劇場版ポケットモンスター ココ』 真実告知からの「父ちゃん…」に涙が止まらない

vol.29 『劇場版ポケットモンスター ココ』(2020年/日本/3カ月くらい~10歳/男/事故)

 6歳の養子のうーちゃんはポケモンが大好きで、テレビアニメをよく見ていてポケモンのおもちゃで遊んでいましたが、おばあちゃんのスマホを勝手に触ってポケモンGOというスマホゲームをインストールして遊んでいました。実は僕もポケモンは初代のモノクロのゲームボーイの頃からずっと遊んでおりまして。うーちゃんがうちに来てからはゲームをする余裕がなくなり手を出してはいないのですが、とにかくポケモンに関しては僕はずっと愛好しておりました。

 そもそもがゲームなので、アニメやポケモンのおもちゃには関心がなく、ゲームとして遊ぶものであるという認識でいたため、うーちゃんがアニメやおもちゃでポケモンを知った気になっているのは「芯を食ってないぞ」と思っていました。ですが、ポケモンGOは位置情報を使った外を歩き回って遊ぶタイプで、一人で遊ばせるわけにはいきません。数年ぶりで僕もポケモンゲームに参入しました。

 そもそものポケモンゲームはポケモンを集めて育ててチームを作って対戦したり交換したりするところに醍醐味があったのですが、その味わいに更に出歩くを付け加えて、パートナーに選んだポケモンと一緒に歩き回ることで愛着を増加させるという要素まであり、文化としての発展を感じます。一緒に歩くパートナーのポケモンを別のポケモンに交換しなければならない時は寂しくて涙が出そうです。

 うーちゃんはポケモンGOとともにテレビアニメもずっと見ていて、映画館に行った時に見つけた『劇場版ポケットモンスター ココ』のチラシを持ち帰り、公開日を指折り数えて待っていました。そしてこのお正月に、妹の3歳の里子のぽんこちゃんと僕の3人でイオンの映画館に見に行きました。ぽんこちゃんもポケモンは大好きで毎晩のように録画したアニメを見ています。

 オコヤの森は人里離れた場所にあり、ポケモンが暮らしていました。ザルードという猿のようなポケモンの群れが森を支配しています。一匹のザルードがカプセルに入った赤ん坊を見つけました。ザルードは赤ん坊を見捨てることができません。しかし赤ん坊を連れて行くことは群れの掟(おきて)に背くことになり、ザルードは群れを抜けて一人で赤ん坊を育てながら生きる道を選びます。赤ん坊はココと名づけられました。

 ポケモンに人間の赤ん坊のお世話などできるのでしょうか。ココはオムツをしていて、どうにか首は据わっているようなのですが、オムツの交換なんてないだろうし、ミルクも離乳食もないだろうし育つのかハラハラします。その辺の描写はばっさり省略されて、夜泣きをちょっとするくらいですくすくと育ちます。そもそもが強靭(きょうじん)な生命力を持った子どもだったのでしょう。ザルードのように木から木に飛び回り、四足歩行する野生児となって10歳に成長します。お父さんのザルードは草タイプのポケモンなので腕からツルを出して木の枝に絡ませてスパイダーマンのように飛び回ることができます。しかしココの腕からツルは出ません。

 「オレの腕からは一体いつになったらツルが出るんだろう?」。ココは寂しそうにつぶやきます。

 オコヤの森を探検していたポケモンの主人公のサトシとピカチュウは、鉄パイプに頭をぶつけて気絶したココを発見。町に連れて行って介抱します。正気をとりもどしたココは驚愕します。初めて自分と同じ姿をした人間を見たのです。それまで自分のことをザルードにしては変だと思っていたので、自分がポケモンではなく人間であったという衝撃の事実を知りました。人間の言葉は分からないのですが、ポケモンの言葉は分かるのでピカチュウと会話することができました。ピカチュウを介して、サトシとココは意思を疎通し、お互い自己紹介しました。

 サトシとピカチュウと一緒に森に帰ったココはお父さんのザルードに会い、今までだましていたのかと詰め寄ります。お父さんのザルードは声を詰まらせながら言います。

 「お前は人間で、オレは本当の親じゃない」

 まさかポケモンの映画で真実告知の場面があるとは。非常に驚きました。うーちゃんが変に深刻に受け止めたらどうしようとハラハラします。通常の里親の真実告知の場合は、「産んだ人が本当の親だけど、育てた親も本当の親だよ。決して偽物の親なんかじゃないよ」と告げます。

 しかしそれまで自分をザルードの子だと思っていたのに、ザルードが親ではなく、自分がザルードですらなく、人間だったとは驚天動地です。もし自分がその立場なら完全に思考停止して寝ると思います。そう考えると、物心つくかつかないかの時にちょっとずつ真実告知をすることの重要さが理解できます。

※編集部注※この先はネタバレ要素が含まれています!

 お父さんのザルードは森の奥にある廃墟となった研究所にココとサトシとピカチュウを連れて行きます。ザルードはココを見つけて、育て始めたいきさつを語りました。ガラスの割れた写真立てがあり、赤ん坊のココを抱いたお父さんとお母さんの写真がありました。全てを語ったザルードがココを残して立ち去ろうとした時、ココが叫びました。

 「父ちゃん!」

 しかしそのままザルードは振り向かずに行ってしまいました。

 オコヤの森には治癒の泉があり、泉の水には怪我などを一瞬で治す不思議な力があります。ザルードの群れは泉を独占していました。ゼッド博士率いる研究チームが治癒の泉を探索してとうとう発見しました。実はココの両親はゼッド博士とともに泉を探索していましたが、泉を保護する考えでゼッド博士と対立し殺害されてしまったのでした。

 ゼッド博士率いる開発チームが重機を使って森を破壊します。ザルードの群れはそれを阻止するために立ち上がり、大変な争いとなります。その対立の中でお父さんのザルードは大怪我を負い、ココは助けるために治癒の泉に浸からせますが、神木が傷つけられたため、泉の水に治癒の力がなく、怪我が治りません。ココはザルードの技を思い出し心を込めて力を集めます。

 「オレが助ける!父ちゃんの技で助ける!だってオレはザルード、父ちゃんの息子だ!」

 すると、ココの体が緑色に光り、森のエネルギーがココに集まって、ザルードの怪我を治します。ザルードのお父さんとココの愛着があまりに強烈で、ココは人間とザルードのハイブリッドに進化して、ザルードの能力を獲得するにまでなっていたのでした。これこそ里親冥利に尽きると言う場面で、見ていて涙が止まらなくなってしまいました。

 帰り道の車の中で、うーちゃんはずっと岡崎体育さんが作った映画の主題歌を「オレは~、きみの~、とーちゃんだ~」を繰り返し繰り返し歌っていました。本当に素晴らしい里親映画でした。うーちゃんには真実告知をしているのですが、理解をしていてもまだそれほど重くは受け止めていません。いつか重大事として受け止めた時に、そういえばココもザルードを「父ちゃん」と呼んでいたなと思い出してくれたらいいなと思いました。

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