〈古泉智浩の里親映画の世界 〉vol.27『家なき子 希望の歌声』子どもの理不尽に振り回されたら思い出したい、この温かさ

古泉智浩「里親映画の世界」

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vol.27『家なき子 希望の歌声』(2018年/フランス/11歳/男/捨て子)

採点表

 児童文学の名作『家なき子』は子どもの頃にテレビアニメで見ていたけれど、途中で飽きて見なくなってしまいました。犬と猿と一緒に大道芸をしながら旅をするみたいな話だったような、でもなんだか見ていて暗い気持ちになるような印象がありました。途中までしか見ていないため、今回の映画で初めてどんな話なのか理解することができました。

 フランスの農村で暮らす11歳の男の子、レミ(マロム・パキン)は母と牝牛と一緒に暮らしていました。お父さんは都会に出稼ぎに行っていましたが石切りの仕事でケガをして自宅に戻ります。ケガで相当な心労があったのか見るからにすさんでいます。そこでお父さんがレミに告げます。

 「お前は捨て子だったのを拾って育ててやったんだ」

 突然の真実告知にレミはショックを受けます。その上、生活費を十分に稼げないこともあり、お父さんはレミを孤児院に連れて行くことにします。お母さんはレミをわが子として可愛がっていたので猛反対しますが無理やり連れて行ってしまいます。

 嫌がるレミを連れて行こうとするお父さんに、旅芸人のヴィタリス(ダニエル・オートゥイユ)が30フランでレミを買うと言います。ヴィタリスは犬のカピと猿のジョリクールを連れていました。そんなヴィタリス一座にレミが加わりました。ヴィタリスはレミに歌の才能を見出していました。

 レミは無理やり一座に加入させられ、歌も無茶ぶりで歌わされ、嫌で嫌でしかたがなく、かんしゃくを起こすこともありましたが、ヴィタリスはけっしてレミを叩いたりはしませんでした。当時今から100年以上前のフランスでは子どもの人権への意識など皆無に近い状態だったはずなのに、怒鳴りつけることもなく、常にレミを温かく守る姿は、まさしく保護者です。

 わが家は先日、家族で回転寿司を食べに行くことにしたのですが、休日のお昼は大変な混雑ぶり。19組、45分待ちと言うのであきらめることにしました。代わりに近くの中華料理屋に入ろうか、と相談していたら6歳の養子の長男は、ものすごく怒り出して広い駐車場を走り出してしまいました。車にひかれたら大変です。建物の陰に隠れてママが近づくとまた走って逃げ回ります。何しろ危ないし、怒ったところで順番が早くなるわけでもないし、何が変わるわけではないのに。本当に意味が不明で面倒くさい。こっちだってお腹が空いてイライラしています。

 「何してんの、危ないぞ」

 長男を捕まえて手をつかんで体を宙づりにして車に引っ張っていきました。結局、別の回転寿司のお店が空いていてそこに移動することにしましたが移動の間ずっと長男は怒りっぱなしです。

 「ママが嘘をついた!ママが悪い!」(大声)

 「嘘なんか何にも言ってないよ、ママの何が悪いの?」

 「さっき言ったでしょ!」(大声)

 「何も言ってないよ。ちゃんと説明してよ」

 「だからさっき言ったでしょ!」(大声)

 そのようにママを責め立てていましたが、何が言いたくて怒っているのかさっぱり分かりません。

 「うるさい!にいにいはあかちゃんみたい」

 僕の代わりにピシャリと言ってくれたのは、2歳の妹でした。時代が昭和だったらバチンと叩いていたかもしれませんが、今は令和の世の中なのでそんなことはしません。「体罰などせず、しっかり言い聞かせれば必ず伝わる」というのが現代の子育てですが、かんしゃくを起こしている幼児にしっかり言い聞かせることなど不可能で、うちを見てから言ってほしいと思ってしまう…。お寿司屋さんに到着したら何事もなかったように玉子のお寿司を食べていた長男。しっかり言い聞かせたから伝わったわけではなく単なる気分です。

 そんな自分と照らし合わせると、ヴィタリスのレミに対する温かい接し方に頭が下がるばかりです。旅芸人の暮らしがそれほど豊かであるはずもなく移動も徒歩で体にも負担が掛かります。屋根もないような建物で一夜を過ごすこともあります。一体なぜヴィタリスはレミにそれほど愛情を注ぐのか。それは大変悲しい過去があったからでした。

 そうして旅を続けるうちにレミの生みの親が判明し、レミは会うためにイギリスに渡ります。物語は二転三転してミステリアスにドラマチックに展開します。しかし僕は、もう親はヴィタリスでいいじゃないか、ヴィタリスは自分のことを「親方」と呼ばせ「お父さん」とは呼ばせないけれど、でももう親以上に家族だし、それでいいじゃないか、それに元々の育てのお母さんのことも気にしてくれないだろうか、そんなことばかりが気になって仕方がありませんでした。

 うちの長男が生みの親に会いたいと言い出したら、もちろん会ってくれるのはけっこうなのだけど、「僕のことを忘れないでくれよ」と自分本位な考えに執着していることにも気づかされます。なので育てのお母さんがどうなることかすごく気になっていたところ、最後の最後でとてもいい感じに。本当によかったです。公開中の作品のため、奥歯にものが挟まったような文章で申し訳ありません。

 アニメは途中で見るのをやめてしまった作品ですが、この映画『家なき子』の物語は超絶に面白かったです。映画の作りも丁寧でとてもドラマチックでテンポもよくて素晴らしかったです。何よりヴィタリスの温かい人柄に触れて気持ちがポカポカしました。子どもの理不尽な言動に悩まされたらヴィタリスを思い出したいと思います。

 またこのようなテーマの映画や物語をうちの子と一緒に見るといいような気もするのですが、変に思いつめても困るのでもうちょっと大きくなってからでいいかなと思いました。

■『家なき子 希望の歌声』YEBISU GARDEN CINEMA、109シネマズ二子玉川ほか全国で上映中

公式サイトはこちら

原作:エクトール・アンリ・マロ 「家なき子」
監督・脚本:アントワーヌ・ブロシエ
出演:ダニエル・オートゥイユ、マロム・パキン、ヴィルジニー・ルドワイヤン、ジョナサン・ザッカイ、ジャック・ペラン、リュディヴィーヌ・サニエ
原題:Rémi sans famille/2018年/フランス/フランス語/109分/カラー/シネスコ/5.1ch
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
© 2018 JERICO – TF1 DROITS AUDIOVISUELS – TF1 FILMS PRODUCTION – NEXUS FACTORY – UMEDIA

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

 〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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