〈古泉智浩 里親映画の世界〉vol.23「赤毛のアン」 老いた兄妹だって少女と”家族”になれる

古泉智浩「里親映画の世界」

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vol.23『赤毛のアン』(2015年/カナダ/11歳//労働力)

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 有名な児童文学作品の映画化なのですが、僕は子どもの頃にテレビアニメ世界名作劇場で見ました。とはいえ、主人公が女の子だったのでとっつきづらくて本放送ではあまりちゃんと見ておらず、高校生の時に再放送で通して見た記憶があります。僕の地元では毎朝アニメの再放送があって、学校に行く前に見ながら食事をしていたんだったか、夏休みだったか。毎朝番組を見ながら、子ども心にアンは友達として付き合いにくいな、と思っていました。なのになぜ「赤毛のアン」を見ていたのかと言うと、宮崎駿監督が「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」の前にスタッフとして携わっていたということが気になって、アンが苦手だなあと思いながらも頑張って見ました。最初苦手だったアンですがシリーズが終わるころには好きになっていました。


〈前回はこちら〉孤高のランボーの苦悩、癒やしたのは「子どもの存在」だった


 今回紹介するこちらの実写映画は2016年のカナダ映画です。テレビアニメのイメージがそれほど変わらないのでおそらく原作に忠実なのではないでしょうか。僕の妻は何度も原作を読もうとしては途中で挫折を繰り返して、とうとう今に至るまで最後まで読んだことがないそうです。僕は伊集院光さんがちょっと前にラジオ番組で原作の「赤毛のアン」をとても気に入って奥さんに読み聞かせをしていると語っていました。それほどの魅力を持った原作だとしたら読んでみたいと思いながら、近年の映画化作品を見てみました。

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 児童養護施設で暮らしていた11才の女の子、アン(エラ・バレンタイン)がプリンス・エドワード島で暮らすマシュウ(マーティン・シーン)とマリラ(サラ・ボッツフォード)兄妹の元に引き取られるところから物語は始まります。

 マシュウとマリラは高齢で農作業が困難であったため、労働力として男の子を引き取りたいと希望していました。マシュウが駅に子どもを迎えに行くと男の子ではなく、待っていたのは赤毛の女の子であったため非常に困惑します。しかし、駅に放置するわけにいかずマシュウは自宅に連れて行くと、田舎の大きな家を見たアンはとても感動し、その気持ちを言葉にしてマシュウとマリラに伝えます。家から続く街路樹を見て感動して「私なら歓喜の白道と呼ぶわ」と素敵な呼び方を考えたり、アンはとにかくよく喋る子だったのです。マリラは次の引き取り手が決まるまで家に置くことにします。

 翌日からアンは牛の乳しぼり、ニワトリの卵の採集などの手伝いをします。隣の家のおばさんがアンを一目見て「やせっぽっちでソバカスだらけでしかも赤毛だ」と言うと、アンは烈火の如く怒って隣のおばさんを罵倒します。

 「大嫌いよ、あなたは自分が太って不器用で頭が悪いって言われたらどんな気分?」

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 アンはよく喋るだけでなく、非常に気性が荒くて感情の起伏が激しい子でした。友達でもある隣人を罵倒されたマリラはアンに謝るように命じますが、アンは応じずマリラに部屋に入っているように言われます。普通なら曖昧に受け流したり、泣き寝入るようなことでも、大人に対しても許せないことがあればきっちり主張するアンは勇敢でかっこいいです。学校に行っても自分の赤毛をからかう男の子を小さな黒板で頭を叩くなどの態度を取るので波乱です。親友となったダイアナを家に招いたら、いちご水と間違ってお酒を飲ませて泥酔させてしまい、ダイアナのお母さんを激怒させるなどトラブル続きです。

 5歳で両親を亡くしたアンは、そんな性格のせいか、これまで里子に出されても戻されたり、問題児扱いで施設を替えられることもありました。マシュウとマリラとの生活はようやく巡ってきた幸福でした。マリラとマシュウもお互い結婚の機会を失い、高齢になるまで兄妹で肩を寄せ合って暮らしていました。決して自分たちの子どもとしてアンを迎えたわけではなく、年齢的にはおじいちゃんおばあちゃんと孫です。2人とも几帳面な性格で、日曜日には教会に通い、寝る前にはベッドの横にひざまずいてお祈りをするような人たちです。未婚のまま年老いて1人で暮らす人は今の日本にもたくさんいますが、高齢の兄妹が2人で暮らしているというケースはあまり聞きません。ちょっと夫婦のようでもあります。

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 2人の暮らしを彩ったのがアンだったのです。よく喋りよく笑い、大きな目をくりくりと動かす表情が豊かで楽しいアン。気性は荒いものの、頑固者ではなく切り換えができて筋の通った考え方をするアンと、厳格で口うるさいけど筋の通った話をするマリラは気が合うようでした。

 季節は廻り、1年が過ぎる頃に孤児院から1通の封書が届きます。中には汽車の切符とアンの引き取り先が決まったことが書かれた手紙。引き取り先にはアンと同年代の子どもが4人もいるとのことで、マリラは「よかったじゃないか」とアンに言います。アンは自分を家から出さないで欲しいと懇願します。翌朝、マシュウはアンを馬車に乗せて駅に向かいます。1人になった家で、アンが寝ていたベッドに座って涙を流しているマリラの元に隣のおばさんが現れて言います。

 「すぐに追いかけるんだよ」

 「何を言ってるんだ、アンに家族ができるんだよ」

 「あんたたちが家族じゃないか」

 隣のおばさんに促され、マリラは馬車で駅へ。果たして、マリラはアンが汽車に乗るのを止めることができるでしょうか。

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 この映画は、夫婦でもないマリラとマシュウが、里子としてではなく、労働力としてアンを迎えた作品です。でも、子どもを保護する対象として扱うシステムが整備されていない当時、2人が大人と子どもではなく、人と人として心を通わせて、家族になっていく様子が伝わります。里親映画として紹介することを迷いましたが、まぎれもない家族の形だと感じました。僕も保育園に行くと、子どものお友達に「白髪のおじいさん」とからかわれており、子どもに肩身が狭い思いをさせているのではないかと心を痛めているので、救われた気持ちにもなりました。

『赤毛のアン』公式サイト
 Blu-ray&DVD-BOX好評発売中!
 Blu-ray BOX:12,000円 DVD-BOX:10,000円(ともに税抜)
 発売元・販売元:株式会社ハピネット
 ⓒ2017 GABLES 23 PRODUCTIONS INC. ALL RIGHITS RESERVED.

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

 〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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