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〈古泉智浩 里親映画の世界〉vol.3『光をくれた人』夫婦の秘密…この子を愛するのは罪なのか

   

古泉智浩「里親映画の世界」

vol.3『光をくれた人』(2017年 米国/子ども0~4歳/保護)

 第1次世界大戦での従軍で心に傷を負ったトム(マイケル・ファスベンダー)は灯台守の職に就きます。孤島で、たった1人の生活ですが、その孤独に癒やしを求めました。本土の海辺の街に暮らす娘、イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)はそんなトムのことを好きになります。しかし島には灯台守とその家族しか暮らすことができず、近くで過ごすためには結婚するしかありません。イザベルは積極的にトムにアタック。トムも彼女の情熱に閉ざしていた心を開き、人生に喜びを感じるようになります。

 海辺の街の人々も、真面目な働きぶりで、戦場の英雄でもあったトムの結婚を祝福します。島で2人の生活が始まると、イザベルはすぐに妊娠。ところが立て続けに2回も流産します。失意の折、男の人の遺体と、生きている赤ん坊が乗ったボートが島に漂着しました。赤ちゃんはまだ首が据わるか据わらないかといった月齢の女の子でした。

 トムはすぐに、本土にモールス信号で報告しようとしますが、イザベルは「もうちょっと後でもいいよね」と止めさせます。イザベルが赤ちゃんを見た時の、「やっと会えたね」という(辻仁成が中山美穂と初めて会った時の顔は見た事がありませんが、きっとそんな顔だっただろうと思わせるような)喜びに満ち溢れた表情が印象的です。出産したお母さんが赤ちゃんと対面する時と同じ笑顔。僕にも覚えがあります。僕と妻が、里子で預かる0歳の男の子と病院で初めて会った時、妻もそんな顔をしていましたし、僕もそんな顔でした。自分で自分の顔は見えませんが、そんな顔だった気がします。

 トムはきちんと報告して、正式に養子にしようと主張しますが、「学校も病院もない島暮らしでは、託してもらえない、きっと施設に預けられてしまう」とイザベルは反対します。2回目の流産をなかったことにして、その子を「ルーシー」と名付け育て始めました。トムも、よくないとは思いながらもルーシーの可愛らしさにすっかりデレデレで、パパになっていきました。トムは男の人の遺体も埋葬してしまいました。

 他に誰もいない、パパとママとルーシーだけの島の生活。ルーシーは自然に親しみ、よちよち歩きから走り回るようになっていきます。食事をして、飼っている鶏のお世話をして…。ルーシーが可愛らしい女の子で、育児の負の側面は全く描かれていませんが、育児の喜びは存分に描かれます。確かに島での育児ならどんなに騒いでも近所迷惑にならないし、ベビーカーを電車に乗せてひんしゅくを買うこともない、待機児童問題もありません。

 家族で本土に行った時にトムは、夫と0歳の娘がボートに乗ったまま行方不明になってしまったという女性、ハナ(レイチェル・ワイズ)の存在を知ります。

 夫は自分が島で埋葬した男性で、ルーシーがハナの娘に違いありません。罪の意識に苛まれたトムは、ルーシーが4歳になった頃、ハナにルーシーこそがハナの娘、グレイスであることを伝えます。全てが発覚し、トムは誘拐と殺人の罪で投獄され、ルーシーはイザベルから引き離され、ハナの元に帰されます。

 「本当のママに会いたい。私はグレイスじゃなくてルーシーよ」

 ハナがどんなに自分が本当の母親であると言っても、ルーシーはイザベルに会いたがり、島に帰りたがります。里親の元に来た子どもは、自分をどれくらい受け止めてくれるのかを探るため、わざと困らせる「試し行動」をすることがあります。ハナは実母であるのに、そんなルーシーの行動に直面するのです。

 一方、ルーシーの父親に対する殺人容疑をかけられたトム。イザベルが証言すればすぐに疑いは晴れるのに、彼女は自分からルーシーを奪うきっかけを作ったトムに対する怒りで、証言を拒みます。トムはトムで、自分が戦争で行った行為から、こうした罰が自分にはむしろ適当だとでもいうように、強く無実を主張しません。

 僕が0歳で預かり一緒に暮らしてきた男の子もルーシーと同じ4歳になりました。先日、写真や動画を見ていたら、これまでの時間があまりに幸せ過ぎだったと改めて気づきました。もう一生分の幸せを与えられてしまったような、僕の人生はとっくに終わって、今はお釣りのような人生なのかもしれないという感覚があります。そんな気持ちもあって、もう1人里子を預かることにしました。映画はルーシーよりもイザベルに対してのトムの思いが強く描かれていて、そこは僕とは違いますが、親子3人で暮らした日々に身にあまる幸福を感じていたのでしょう。

 ハナは実母であるのに、ルーシーに認めてもらえず、ルーシーは二つの名前の間で混乱しています。イザベルは子どもを失って失意のどん底にいます。僕だってもし子どもを誘拐されたり、事故に遭ったりしたら発狂してしまうかもしれない。でも、その時僕は養父なので、「本当のパパは僕だよ」とは言いづらいところもあります。

 さて、物語の焦点は実のところ、血縁のない子どもの養育ではなく、罪を赦すか否かというところに当たっています。しかし、子どもという存在がどれほど光をもたらすかは目いっぱい描かれ、一方、子どもを失うと真っ暗闇に陥るところも描かれているので、里親映画度は8としました。

◇『光をくれた人』日本版公式サイトはこちら
監督・脚本:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ、ブライアン・ブラウン、ジャック・トンプソン他
配給:ファントム・フィルム
ⓒ 2016 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC

◇『光をくれた人』DVD&Blu-ray 好評発売中!

販売:KADOKAWA

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?