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〈古泉智浩 里親映画の世界〉vol.2『最愛の子』誘拐から3年後、わが子は両親を忘れていた

   

古泉智浩「里親映画の世界」

vol.2『最愛の子』(2016年 中国/子ども3~6歳/誘拐)

里親映画採点表 最愛の子

■愛着度:子どもとの密接な関係の度合/■育児度:育児場面の充実度合/■里親映画度:作品に占める里親要素の度合/■勇気度:里親が励まされる度合/■作品充実度:映画作品としての評価

 中国では年間20万人の子どもが行方不明になっているそうで、そんな状況でうかうか子どもを放ったらかしにするのもどうかと思うのですが、3歳の男の子ポンポンがある日行方不明になります。ポンポンはシングルファーザーのティエン(ホアン・ポー)と暮らしていて、その日は別れて暮らすお母さんのジュアン(ハオ・レイ)との面会日でした。帰宅して近所の子どもと遊びに行ってそのまま誘拐されてしまいます。

 ティエンとジュアンは必死で探して、懸賞金まで出したけど結局見つけることができません。そうして3年が流れ、6歳になったポンポンは遠くの農村で発見されます。そこでは養母のリー(ヴィッキー・チャオ)と4歳くらいの妹と3人で暮らしていて、すっかり両親のことを忘れてしまっていました。農村に潜入した両親はさらうようにポンポンを連れて帰りますが、ポンポンは「お母さんに会いたい」と言って泣き、自分たちの事を全く親だと思ってもらえません。

 驚くのは子どもが3歳まで懐いていた親のことを6歳になったらすっかり忘れてしまい、養母のリーを「お母さん」と呼ぶことです。「三つ子の魂百まで」と言うので、僕も引き取った子どもが3歳になるまで育てることができればそのままずっと僕のことを「パパ」と呼んでくれるだろうと、3歳を最初の一応のゴールに頑張ろうとしていた事を思い出しました。しかし、作品では3歳では忘れてしまうことが描かれており…。今は4歳になった息子、ここまで育ててきて養子縁組することもできました。

 子どもを誘拐された両親は気の毒だけど、その後子どもと引き離される養母のリーも気の毒。そして何より2回も親を失うポンポンがかわいそうで仕方がありません。養母のリーはポンポンを死んだ夫が別の女に産ませた子であると信じていました。妹の女の子のことも捨て子だったと信じていて、3人は農村で貧しいながらも慎ましく仲良く暮らしていました。ポンポンの発見をきっかけに、妹も養護施設で暮らすことになり面会も拒否されます。

 この映画のすごいところは、子どもを失った両親がのちにまるで誘拐犯のように子どもを奪う立場にもなり、知らなかったとは言え誘拐犯の一味であった養母が子どもを奪われる立場に立たされることです。全員が不幸極まりないけど、誰もが子どもを強く愛しています。ポンポンの母親が、ポンポンと妹を一緒に暮らせるように、妹との養子縁組を希望し、里親を希望していた養母のリーと家庭裁判所で対立する場面があります。ポンポンの両親は離婚していて別居暮らし、妹は施設、リーはポンポンと妹と暮らしたい。みんなで近所に暮らして親戚づきあい、近所づきあいのような形にはできないものでしょうか。

 父のティエンはポンポンが戻ってから、夜ゴミ出しに行く時も片手に黒いゴミ袋、逆の肩にポンポンを担いでゴミ捨て場に行きます。僕は普段、誘拐犯のような気持ちを若干抱きつつ子どもと暮らしていますが、だからと言って子どもを誘拐されたらたまりません。イオンやアピタなど大きなショッピングセンターの人混みでうっかり目を離してしまうことがないよう、改めて気を引き締めて生活しようと思いました。なにしろうちの4歳の男の子は顔がとても可愛らしくてほっそりとしてスタイルもかっこいいので、誘拐する気がなくてもつい連れて行きたくなっても不思議ではありません。

 主人公の父ティエンはポンポンを探す過程で、子どもを誘拐された親グループに入ります。中国では最近まで採られていた一人っ子政策で、もし次の子どもを作ろうとするならば誘拐された子どもの死亡届が必要で、その子を諦めなくてはなりません。産む決断を下したグループリーダーのお父さんは、グループのみんなにも申し訳ないと泣きながら謝っていて、制度上の葛藤も描かれていました。

 今回このコラムを書くに当たって作品を見たのは3回目。なにしろこの通り重々しいテーマなので見る前は非常に億劫で、覚悟が必要だったのですが、見始めたらあまりの面白さでのめり込んでしまいました。養育場面はそれほど描かれていなかったので育児度は4、里親としてはつらい側面ばかりだったので勇気度も5です。ただ、3歳になった子であっても、引き取られた大人を慕い、親子関係を築いているところがよかったです。

『最愛の子』日本版公式サイトはこちら
監督:ピーター・チャン 脚本:チャン・ジー
出演:ヴィッキー・チャオ、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イー、キティ・チャン他
提供:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/配給:カルチャヴィル

◇『最愛の子』DVD 好評発売中
価格:3,900円 (税抜) 販売元:ハピネット
©2014 We Pictures Ltd.

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?