〈古泉智浩 里親映画の世界〉孤高のランボーの苦悩、癒やしたのは「子どもの存在」だった vol.22「ランボー ラスト・ブラッド」

子育て世代がつながる

古泉智浩「里親映画の世界」

 

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vol.22『ランボー ラスト・ブラッド』(2020年/アメリカ/8歳/女児/親代わり)

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  ベトナム帰還兵で元特殊部隊所属のジョン・ランボー(シルベスター・スタローン)は、戦場での過酷な経験とその後の激しい体験によるPTSDから回復しきれていないまま、高齢者となっていました。前作『最後の戦場』ではタイでコブラを捕まえて業者に売る仕事で生計を立てていて、故郷のアリゾナに向かうところで終わっており、その後一体どのような生活をしていたのか非常に気になっていました。

 なんと、ランボーは故郷のアリゾナで牧場経営をしていました。ボランティアで大雨で山から鉄砲水が発生している現場に駆けつけ女の子を助けます。まるで山で何日も行方不明だった2歳の男の子を見つけたスーパーボランティアのおじいさんのような活躍です。そして「家族」を持っていました。これまでのシリーズを見て来た者として我が目を疑う光景です。あの一人だけの軍隊が家庭を営んでいる。家族と言っても古い友人マリアとその孫娘でこれから大学に進学しようとしているガブリエラ(イベット・モンレアル)で、かれこれ10年も一緒に暮らしています。

 ランボーと言えば世捨て人も同然で、極力人と関わらなくて済むようにタイでコブラを捕まえる仕事などに従事しており、たまたまアメリカ人が訪ねてくると迷惑そうに顔をしかめていたものです。そんなランボーなので、家族と暮らしていると言ってもマリアとガブリエラを母屋に住まわせて、ランボー本人は地下に穴を掘ってトンネルを作り、簡易ベッドやCDラジカセを持ち込んで寝起きしていました。まるで北ベトナム軍の地下通路のようなねぐらです。

 さかのぼること10年前。ランボーがアリゾナに戻るとガブリエラの両親が非常にもめていて、お父さんがお母さんに暴力をふるった挙げ句、家を出ていきました。しばらくしてお母さんが病気で亡くなり、おばあちゃんと8歳の孫娘だけになってしまったためランボーが彼らの面倒を見ることになります。ガブリエラは利発な子で、馬の扱いが上手。ランボーは馬の調教アシスタントで彼女を頼りにしています。ランボーが寝起きするトンネルもガブリエラが手伝って作られました。

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 戦場では捕虜として捕らえられ、穴に押し込められてネズミを捕まえて食べるような暮らしをしたこともあり、今も助けることができなかった仲間を思って悪夢にうなされる毎日ですが、自分を頼ってなついてくれる幼い娘の存在、彼女の笑顔にどれだけ癒やされたことでしょうか。僕は戦場の経験などなく何のPTSDもないのですが、生きていて年をとっていくことで、健康や希望などありとあらゆるものが失われることで傷ついて、新型コロナで収入が減るのもつらいし、そうじゃなくても生きているだけでつらい。そんな生ぬるい実感とランボーの苦悩を比べるのも非常に申し訳ないのですが、子どもの存在で癒やされている共通点があるということを大いに声を大にして言いたい。

 ランボーは何か精神科で処方される薬を常用していましたが、僕も高血圧の薬とアリナミンAを常用しています。ガブリエラはランボーのことを「お父さん」とは呼ばず「おじさん」と呼んでいましたが、ランボー本人は彼女の幸福を願い、健やかに育つことをいの一番に考えているお父さんそのものです。ガブリエラが放つ光にランボーの心の闇にも明かりが差していたことでしょう。

 ガブリエラがメキシコに住んでいる友達から電話で実のお父さんが見つかったと教えられます。ガブリエラにはどうしてもお父さんに聞いておきたいことがありました。それは、一体なぜ自分とお母さんを捨てていなくなったのかということです。メキシコにお父さんに会いに行くと言うとおばあちゃんは猛反対して言います。

 「あんたのお父さんはランボーだよ」

 ランボーにもメキシコ行きを反対されます。

 そんなおばあちゃんやランボーの反対を押し切ってガブリエラは単身メキシコに向かいます。10年ぶりに再会したお父さんに疑問をぶつけますが、お父さんの答えは冷たいものでした。

 せっかく10年ぶりに会いに来てくれた娘にそんなことをどうして言えるのでしょうか。もしかしたら、自分みたいなクズと関わっていると娘に不利益が降りかかるという理由で、あえて振り切るために言った可能性もあります。でも、いくらなんでも言葉の選びようがあります。

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 ガブリエラはあまりのことに泣き出してしまい、友達に誘われてガブリエラは夜の街に繰り出します。そこは麻薬や人身売買が横行する危険地帯です。ガブリエラが人身売買カルテルに捕まったことを知ったランボーは一人軍隊としてメキシコに救出に向かいます。果たしてガブリエラは無事にアリゾナの自宅に帰ることができるのでしょうか。

  さて、この後メキシコに乗り込んだランボーはガブリエラを拉致した犯人を締めあげて居場所を言わせます。その際、ナイフの柄の部分で男の鎖骨を砕き、傷口から指を突っ込んで折れた鎖骨をほじくり出すというとんでもない拷問をします。ガブリエラの居場所を一刻も早く突き止めたいという一心からの一直線な行為なのですが、この後もエグ味のきつい表現が展開するので苦手な方はご注意を。

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 里親映画判定ですが、正式な里親や養親ではなく、あくまで近所付き合いの延長での養育とは言えおそらく衣食住など経済的には完全にランボーが負担していて、更には大学への進学費用も負担していると思われ、「おじさん」と呼ばせてはいますが通常の親子並みの信頼関係を築いていると思われます。

 そんな養育ぶりが随所にうかがわれ、物語の中盤ランボーが味わう悲劇は通常の親子と同等かそれ以上です。ガブリエラが一点の曇りもなく真っすぐないい子であることにむしろ絵空事感があるほどで、あんな子によくぞ育ててくれたものだ、ランボー、戦闘以外も大したものだと思います。ちょっとは反抗期などあったのでしょうか。顔が怖くて反抗できなかったと言われればうなずけます。

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◇「ランボー ラスト・ブラッド」公式サイトはこちら

6月26日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー(配給:ギャガ)
© 2019 RAMBO V PRODUCTIONS, INC.

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

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