〈古泉智浩の里親映画の世界〉vol.30『やさしい本泥棒』親子を超えた信頼関係 こんなふうになれたら

※今回は古泉さんのイラストでお届けします

vol.30『やさしい本泥棒』(2013年/アメリカ・ドイツ/11~14歳/女/里子)

 11歳の女の子、リーゼル(ソフィー・ネリッセ)は児童養護施設の職員に弟とともに連れられ蒸気機関車でミュンヘン近郊の街に向かって移動している最中に、弟が急死します。1938年、ドイツではナチス政権が権力を握っていました。リーゼルと弟は、母親が共産主義者であったため引き離されて、里親の元に届けられる途中の出来事でした。里親と言っても、行政からの援助金を目当てに引き取ろうとしている老夫婦です。リーゼルは弟を亡くし悲しみに沈んでいますが、里親のママ、ローザ(エミリー・ワトソン)は援助金が1人分減額されることを嘆いていました。

 しかし、里親のパパ、ハンス(ジェフリー・ラッシュ)はリーゼルのことを「お姫様」と呼び、親切にしてくれます。ママのローザはいつも不機嫌でカリカリしています。ぎこちないながらも3人での生活が始まります。

 リーゼルは通い始めた小学校で、文字の読み書きができず同級生に取り囲まれて「バーカ、バーカ」と連呼されます。リーゼルはガキ大将につかみかかって馬乗りになり、顔を拳でボッコボコになぐります。そんなめっぽう気の強い子でした。ガキ大将は嫌われ者でもあったため、クラスでの株が上がりました。しかし、読み書きをできるようになりたいと思い、ハンスに言葉やつづりを教えてもらうことにしました。地下室で文字を習い、少しずつ文章や本が読めるようになっていきます。

 街の広場ではナチス政権による焚書活動が行われます。山積みにされた本に火が放たれ、初詣のお焚き上げのように燃え盛り、さらに聴衆たちは手にした本を炎に投げ入れます。すっかり本に興味を抱いたリーゼルは人けが絶えたあと、こっそり焼け残った一冊の本を持ち帰ります。その本はSF小説の『透明人間』でした。『透明人間』を通じて本の面白さ、読書の素晴らしさをリーゼルは学びます。

 ハンスにはかつての戦争での恩人がいました。ハンスは何があってもその家族を手助けすることを心に誓っていました。マックス(ベン・シュネッツァー)はハンスの戦友の息子でユダヤ人でした。マックスがナチスの手を逃れ、ハンスの家に逃げ込み、ハンスは自宅地下室でかくまいます。ローザが作るスープの不味さにすっかり意気投合したマックスとリーゼルでしたが地下室は寒く、マックスは風邪をこじらせ意識を失い生死の境をさまよいます。意識不明のマックスに、リーゼルは『透明人間』を朗読し、町長さんの自宅の書斎に侵入しては本を拝借して次から次へと、朗読して聞かせます。ナチスの目だけではなく、街の人々全員に対しての秘密を共有することで、リーゼルとハンスとローザは運命共同体となり、お互い惜しみなく協力し合うようになります。

 ハンスはそもそも温かい人柄で、誰に対しても分け隔てなく親切に接するタイプですが、ローザは意地悪でギスギスしています。2人とも自分たちを「パパ」「ママ」と呼ばせますが、我が子として養育するつもりはなく「距離を置いた親子関係、家にいる子どもだけど他人」のように見えました。しかし、マックスを全力で介抱することで彼らは、親と子、家族であるかどうかなどどうでもいいくらい一丸となり、完全に仲間、魂の共有がなされていると言っても過言ではないほどでした。

 マックスの意識が戻った時、ローザは学校を訪れてリーゼルを叱りつけるふりをして廊下に呼び出し、マックスの回復を知らせます。跳び上がらんばかりに喜ぶリーゼルでしたが、教室に戻る際には、

 「今度やったら縛り付けて逆さに吊るすよ」

とローザに恫喝され、リーゼルの隣の女の子は震え上がります。

 さて、うちの6歳の養子の男の子はずいぶん前から平仮名とカタカナ、簡単な漢字まで読むことができ、ちょっとした足し算などもできていたため、この春からは小学校ですが、この子は勉強は大丈夫だろうとすっかり安心していました。先日、おばあちゃんの誕生日があってうーちゃんが言いました。

 「パパがおばあちゃんの絵を描いて、横に僕がメッセージを書くから、絵を描いて」

 画用紙の左側に僕がおばあちゃんの似顔絵を描いた横に、うーちゃんがひらがなで文字を書こうとすると、

 「『ま』ってどう書くんだっけ?」

 「こうだよ」

 「『う』は?」

 「え?自分の名前なのに、本当に分かんないの?」

 書き順もめちゃくちゃで、ペンの握り方も変で、握りこぶしにペンが刺さっているような持ち方です。そのため字の線が、グズグズです。

 そうしてなんとか「おばあちゃん いつもすまほをかしてくれて ありがとう」とメッセージを書いておばあちゃんに手渡していましたが、ところどころ鏡文字もあります。このまま小学校に入ったらあれこれ修正ポイントが多すぎて、いちいち全部指摘されたらすっかり嫌になって、勉強そのものが嫌いになりそうです。慌てて平仮名の練習ノートを買いに行きました。

 また、リーゼルのように本好きになってほしいと平仮名で書かれた子ども向けの物語の本を何冊か買って渡していましたが自分からは全然読みません。日常生活の世界とは別の、本の物語の世界を楽しんでくれるようになってほしい。テレビでアニメを見たり、スマホでポケモンGOをしたりするのも度が過ぎなければとがめるつもりはないのですが、本の世界を楽しめるような子になってほしいと願います。

 さて、里親映画ポイントですが、11歳の女の子で血縁がない関係で、「パパ」「ママ」と呼ぶのが最初はぎこちないものでしたが、マックスが現れて秘密を共有し、一丸となって彼を守ろうとすることによって一体感が生じ、仲間意識でもなんでもいいですが、お互いの垣根がなくなり何の気負いもなく自然な呼び方として「パパ」「ママ」と呼ぶ、そんな感じの関係を築く過程が自然に描かれております。紛れもなく家族であり、親子を超えた信頼関係が築かれていました。戦時下は体験したくはないのですが、そんなふうにありたいなあと思わずにはいられませんでした。

『やさしい本泥棒』
ブルーレイ発売中/デジタル配信中
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発売/ウォルト・ディズニー・ジャパン