子どもは親をよく見ている 息子に登山に誘われて〈清水健さんの子育て日記〉51
思い出の山「きっと気持ちいいよ!」
子どもはすごく敏感だ。
「金剛山に登りたい!」。息子とは今までに3回、登った。もちろん達成感も、頂上でふたりで食べるカップラーメンも最高である。でも、正直、かなりしんどい。僕はもちろん、小学3年生の息子の体力的にも、登るにはそれなりの覚悟が必要だ。なぜ、いきなり登山なのか。
「金剛山でも行こうか!」。妻とは何かあると気分転換に登った、僕たち夫婦の思い出の場所のひとつ。登山中、息子にもそんな話をしたこともあった。僕が最近、少しまいっていたのを息子は見ていたんだろう。「きっと、気持ちいいよ!」。本心はわからない。でも、子どもは親を見ている。びっくりするぐらい見られている。
それにしても体力がついてきた。「先に行かないで! 見えるところまで!」と何回言ったか。一緒に登った僕の姉と姪っ子に、頂上で写真を撮ってもらった。「ほんと、骨格が一緒だね!」って大笑い。3人では登れなかったけど、確かに親子だなと写真を見返し妻に話しかける。
聞かないふりをして、聞いている
すごい!って頭をクシャクシャにした。体育の授業で50メートル走の計測があった日、家に帰ると「クラスで2位だったんだよ!」って。「1位じゃないの?」とは言わない。
あれは幼稚園の運動会前日。「明日は1位になろうな!」「パパは速かったんだぞ!」って何げなく息子に話した言葉。寝る直前、小声で「パパ、明日、1位でなくてもいい?」って、今にも泣きそうな表情で聞いてきた。何で息子に自慢話を。子どもたちは見ている、聞いている。そして期待に応えなければって。
今回は「おっ、すごいじゃないか!」。この返答があっているかはわからない。息子も言い訳はしない。「上体がね、少し高くなったんだ! もう少し前傾姿勢で走れたらな」って。実は、数週間、ふたりで練習していた。僕は高校時代、陸上部で100メートル選手。ちょっとした反抗期でもあり、全部を素直には聞かない息子。でも、聞いていないふりをして聞いている。
速くなくてもいい。でも、こうして息子がやりたいことに一緒に本気で取り組んで、反省を込めて話す時間、そして、妻の写真の前で話せることがうれしくてたまらない。
止まってもいい。でも、歩けば、進めば、頂上につく。どんなにしんどくても。誘ってくれてありがとう。親子ふたり、頼り頼られ、今回も頂上で食べたラーメン、おいしかったね。
清水健(しみず・けん)
フリーアナウンサー。8歳の長男誕生後に妻を亡くし、シングルファーザーに。
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