児相職員もSOS「いつも憎まれ役だ」…どうすれば結愛ちゃんを救えたのか?

木原育子 (2018年7月24日 東京新聞朝刊)
 どうすれば救えたのか。東京都目黒区のアパートで両親から虐待を受けた船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5)=が死亡した事件を受けて、児童相談所(児相)や児童養護施設の職員らでつくる「子ども研究会」(新宿区)が14日、虐待防止を考える勉強会を開いた。

結愛ちゃん虐待死事件後、批判の対象に

 「児相は精いっぱいやっているが、いつも憎まれ役だ」。都内の児相職員がうつむいた。結愛ちゃんを担当した品川児相には事件後、1日200~300件の批判の電話があったという。

 結愛ちゃんは今年1月、香川県から目黒区に転居。県の児相は過去に2度、身体的虐待で一時保護した経緯を品川児相に伝えていた。しかし、品川児相の担当者は母親に接触したのみで、結愛ちゃん本人には会えないままだった。結愛ちゃんは3月に死亡した。

 今回のケースでは、児相間の引き継ぎが問題になった。勉強会で現場の職員からは「『心配だ』と声を上げる職員はいなかったのか」「もっと家庭の情報を引き出す力をつけていく必要がある」などの声があった。

子どもの虐待死を防ぐために議論する児相職員ら=東京都内で

職員増「ありがたい話だが…」専門性育成が急務

 都内の児相の場合、虐待事案を扱う児童福祉司が一人で抱える相談件数は100件を超える。事件を受け、小池百合子知事は児相職員を増やす意向を表明した。

 しかし、現場の職員からは「ありがたい話だが、畑違いの職員や新人が来ても効果は薄い」「児童福祉司は2~3年で全く別の部署に配属が代わることもある。専門性の育成が急務だ」と切実に訴えた。

 改善策として▽児童福祉司が一人で扱う相談件数に上限を設け、超えた場合の増員を義務付ける▽児相職員を目指す学生のインターンシップ(就業体験)を導入する▽児相を核にした保健師や保育園、学校などのネットワークをつくる-などの提案があった。

 勉強会には児相職員のほか、各区の子ども家庭支援センター、学校関係者、保育士ら約30人が参加した。

 自由討論に先立ち、埼玉県児相に24年間勤務した古谷(ふるたに)高子さんが講演。1999年に県で始めた、虐待通報の後、48時間以内に児相が子どもの安全を確認する「48時間ルール」の導入当初を振り返った。「子どもの『助けて』という声が社会で共有されず、児相は孤立化している。児相の抜本的な態勢強化とともに、子どもの権利が守られる社会に変わってほしい」と訴えた。